二学期

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運転手が言う様に、並んでベンチに座り、同じ飲み物を飲みながら 話をしている姿は、どう見ても、仲の良いカップルにしか見えない。 「月の奴、何時の間に相馬と、あんな仲になったんだ」 明弘の心は、穏やかでは無かった。 ずっと自分の腕の中に居ると思っていた月緒が、知らない間に 一郎と、あんなに親し気に、、、ぐっと拳を握りしめる。 車は、商工会議所に着き、会長室へ行くと 「おっ、今日は明弘君も一緒か」と、会長の花岡は、にこにこして 明弘の傍に来て「久しぶりだな~」と、握手し、明弘の背中をパンパンと叩く 明弘が、三条高校で、バスケット部のキャプテンとして、活躍していた頃 この花岡は、応援団長として、何かと、バスケ部の面倒を見ていた。 その三条高校が、全国大会で優勝した時は、あまりの嬉しさに 手放しで号泣し、見ている皆が、引くほどの、熱い男だった。 今でも、その時の喜びを忘れず、明弘を見るだけで、機嫌が良くなる。 当然、物産展の話も、和気藹々で、すいすいと滞りなく進み 「遠野さまさまだったな」と、帰りの車の中で、飯塚も機嫌が良い。 だが、明弘の胸の中のもやもやは、晴れないままだった。 あの後、二人は何処へ行ったのか、帰りに公園を見たが、姿は無かった。 自分の机に座り、なんで一郎と一緒だったのか、聞こうとスマホを持ったが 聞けなかった、その代わりに「今夜は、何が食べたい?」と、打つ。 すると「お父さんが、鰺と茄子を持って来てくれたから、アジフライと 麻婆茄子にしようよ」と、直ぐに返事が来た。 なんだ、あれから直ぐに、家に帰ったのかと、ほっと安心する。 五時になった、明弘は、机の上をさっと片付け、あっという間に会計課を出て 車に乗ると、一直線に、アパートへ向かう。 「明さん、お帰り~~」いつもの、月緒の笑顔が、迎えてくれる。 「今日は早かったね」と、言いながら、明弘の鞄を取って いそいそと、明弘の家に入る。 「もう、献立が、決まっていたからな」そう言いながら、スーツを脱いで シャツの腕をまくり、エプロンを掛け、鰺を開く。 「私、もう麻婆茄子は、作ったんだ」そう言った月緒は 「じゃ~ん、ほらね」と、ぐつぐつ言っている、フライパンの蓋を取る。 たちまち、辺りに麻婆のスパイシーな香りが広がる。 「おっ、旨そうじゃないか」「旨そうじゃ無くて、旨いのっ」「そうか」 そう言い合う、何時もの月緒と、明弘だったが、明弘の心の隅には まだ、一郎と言う棘が抜けていなかった。 二人の姿は、本当に、お似合いのカップルだった。 俺と月じゃ、あんな感じにはならない、精々、年の離れた兄と妹だ。 下手をすれば、父と娘にしか、見えないかも知れない。 ジュージューと鰺を揚げ乍ら、明弘は、そう思っていた。 揚げたてのアジフライに、タルタルソースを付け、ハフハフ食べながら 「美味しい~~ほっくほくだね~」月緒は、大喜びでぱくつく。 「タルタルも良いけど、ソースも良いぞ」 「うん、ソースも良いけど、ポン酢も、あっさりで美味しい」 と、鰺フライを、色々な味で楽しんだ後、ご飯に麻婆茄子を掛けて 麻婆茄子丼にし、二人は、せっせとかき込む。 「あ~~満腹~~もう、な~んも入らん」月緒は、お腹を撫でながら言う。 そんな月緒に「月、学校終わってから、どこかへ出かけたのか?」 ついに、明弘は、我慢できず、そう聞いてしまった。 「うん、どうしてし知ってるの?」月緒は、不思議そうに聞く。 「商工会議所に行く用が有って、、その途中で、月の姿を、見かけたんだ」「な~んだ、そうだったの」月緒は、屈託の無い顔と声で言う。
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