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ポケット
寒い冬の日、西野圭一は暖かな電車の椅子でウトウトしていた。夢のような心地良さと格闘中だった。
西野はさり気なく上着の左ポケットの中に手を入れた。すると、何かが手に触れた。ビクッ。反射的に手を引っ込め、再度恐る恐るポケットに手を入れる。
ムニムニ。それは弾力があり生温かい。ポケットの中に入っているものを探っていると、それはどうやら左隣のほうに向かって伸びていた。
ゆっくりと隣の席を見ると、女性と目が合った。そこにはいつの間にかモデルのような美形の女性が座っていた。ポケットの中に入っているものは彼女の右手だった。
電車に乗ったとき、左の座席には草臥れた顔のおっさんがいたはずだ。ひとまず、ポケットの中の手が、おっさんの手でないことに安堵した。
どうしてポケットの中に女性の手が入っているのだろう。顧客満足を満たすべく計画された新手のマッチングイベントなのか。鉄道会社の企画力恐るべし。いや、それは違うか。俺は頭をフル回転させ、状況分析に努めた。
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