ポケット•マジック

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「種も仕掛けもありません」  そう言って、俺はスマホをポケットに戻すと、今度はテーブルの上のまだ開けていない缶ビールを手に取った。 「タラララララ〜」  マジックショーでよく聞く曲を口ずさみながら、今度は左前のポケットに突っ込む。  前だとポケットが平らになっているのがよくわかるだろう。 「すごい、プロみたい」 「ただ、これは手品じゃないんだな。マジックはマジックでも魔法の方」 「魔法?」 「なぜか、俺、自分のポケットに何でも入れることができるんだ」 「何それ」 「怪しまれるから、普段はやらないけど、スノーボードもポケットに入ったぞ。おまけに入っている間は重さを感じないんだ」 「本当だったら、便利だね」  美羽に軽く言われて、ムッとする。  今まで、他人に言ったことがない秘密だったのに。彼女なら信じろよ。 「俺の言うこと、信じられないのかよ」 「だって、拓海の言うこと、素直に信じられるわけないじゃない」 「ひどいなあ」 「日頃の行いが悪いからでしょ」 「じゃあ、試してみろよ」  俺は美羽の手を掴んで、右前のポケットにその指先を入れた。 「ほら、何もないだろう」  自分でも指先を入れると、布を感じないのだ。  美羽の顔に不安が走った。 「本当なの?」 「まだ、信じられないなら、確かめろよ」  美羽の手を引きながら、ポケットに入れるイメージを持つ。それだけで、美羽の姿は消える。  美羽は驚いているだろうが、大丈夫。子どもの頃にペットのハムスターや犬で試したことがある。窒息することもなく、大丈夫だった。
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