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4.お見合いは楽しい?
ゆっくりと目覚めた土曜の朝。
今日はお見合いの日だ。
もそもそっとベッドから這い出してシャワーを浴びた。
叔父様の顔に泥を塗るわけにもいかない。
服は薄いピンク系のワンピースに決め、花のモチーフのペンダントとピアスを身に付け、髪はハーフアップにまとめる。そしてシンプルなバレッタで留めた。
今日のお見合いは改まった形ではなく、気軽にという事で最初から当人同士のみで会うことになっている。そりゃあ、断る前提だからその方がいいよね。
だから、着物なんて大層な服装は端から除外だ。
相手との待ち合わせは東京タワー近くにある外資系の【ホテルフォレスタ】の一階にあるガーデンラウンジ。時間は11時ということだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
このガーデンラウンジ【花筏】は、春頃にTVのアフタヌーンティー特集で紹介され、尚哉に行きたいと話をしていたんだけど、まさかお見合いで来ることになるとは思わなかった。
遅れないようにと待ち合わせの10分前にはラウンジへに到着した。
そのラウンジは壁の一面が全面ガラス張りで、室内からも外の庭園を見ながらゆっくりとした時間を過ごせるように設計されていた。空調の利いた室内から庭園が見える席は人気が高いらしい。
よく見ると窓の外にもテーブルが見え、若い女性たちの姿が見える。女子会でもしているのかな?
ガーデンの奥には結婚式も挙げられるようにと考えられた小さなチャペルと広場が作られていて、若い人には人気の式場らしいが、ここからは見えない。
この日は昼から挙式の予定が入っているようで、この【花筏】の中にも招待客らしい人の姿が見える。
私もいつかこんなところで結婚式を挙げてみたいな思うけど、今はそれよりも尚哉の浮気疑惑の解明と今日のお見合いを終わらせることが先決だ。
私が案内されたのはラウンジでも奥の方で人通りの少ない落ち着いた席だ。ここであればお見合いに相応しいと判断でもしているのだろうか。
まぁ、こんなところで働いていれば、お見合いなど何度もある事なのだろう。
席についてチラリと周囲を見ると、満席という訳じゃないけれど7割方は埋まっているだろうか。
こんなホテルのラウンジなどプライベートで来ることはないので、少し緊張する。しかも今日はお見合いだ。
(しかし…よくよく考えてみたら、相手の人のことを何も聞いてない。名前も年齢も何もかも。尚哉のことで肝心なところが抜けてた。いや、もしかしたら叔父様は言ってたかも。どうしよう)
どうやって本人だと認識しようかと入り口を見ていると、見るからにオーダーメイドと思われるスリーピーススーツに身を包んだイケメンの男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(背、高いなぁ。年齢は私よりも上だよね。かきあげている前髪が妙に色っぽい。でも、格好いい。身体も鍛えてるっぽい)
黒い髪に切れ長の目、鼻筋もスッと通っていて、早々、見かけることのない最上級のイケメンに思わず見とれ、ついつい観察してしまった。
(あんな人がお見合い相手ならいいのになぁ)
そんな訳ないな……と思っていると、その男性と目が合う。見とれていたことが恥ずかしくて目をそらすと、次の瞬間に「日向夏姫さん?」と声を掛けられ、「はいっ」と声の方に顔を向けると、さっきのイケメンが目の前に立っている。
「初めまして、藤森です」
イケメンは自分を藤森と名乗り、私の前の席に腰を掛けた。それでようやくこのイケメンが本当に自分のお見合い相手なのか。そういえば、叔父様は優良物件といっていたが、こういう事かと納得がいく。
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