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「日向夏姫さん。今日は来てくれてありがとう」
目の前のイケメンが私の名前を呼んでいることに心の中で悶えながら、少しずつ落ち着きを取り戻した。誰もが見惚れるほどの最上級の顔が目の前にある。
眼福だ。
「今日は無理なお願いをして申し訳ない。父からの催促にはうんざりでね」
「いえ、こちらこそこんな経験もないので楽しませていただきますね」
私の言葉に少し笑いながら、イケメンはウェイターを呼んだ。
「何を飲む?紅茶?コーヒー?」
「あっ、じゃあ…ロイヤルミルクティーを」
「ロイヤルミルクティーとコーヒーを」
飲み物を頼んだ後、改めて自己紹介をした。
イケメンの名前は藤森鷲生さん。37歳の会社員で私よりも11歳も年上だった。でも、年齢よりも若く見えるというか、イケメン過ぎて年齢不詳といった表現がぴったりな感じだ。
差し出された名刺には、実家の白石商事の取引先でもあるリエースコーポレーション常務取締役とリエース建設の企画開発事業統括部長の肩書がならんでいた。
リエース建設で働いているとは聞いていたけれど、まさかリエースコーポレーションの常務とは。
リエースコーポレーションは、その関連企業も含めれば、日本を代表するほどの大企業だ。うちも大きいがそれよりもかなり大きい。
この見た目で仕事もできるとエリートコースなんだろうな。
いや、リエースの常務の藤森といえば、現社長の息子だったはず。いわゆる御曹司だ。
三屋先輩に言わせると、「乗り換え一択」の一言だろう。
「聞いていると思うが、私はこの見合いを進めるつもりはない」
「安心してください。私もです」
藤森さんは、自分から断ることを提案してこのお見合いをセッティングしたのに、私がそう言うとは思わなかったようだ。
無表情だった顔が、今は目を見開いて驚いている。(イケメンはどんな顔でも格好いい)
おそらく…おそらくだが、自分の容姿を理解したうえで、断られるとは思っていなかったのではないか。
「それは……本心か?」
「はい。藤森さんは素敵な方だと思いますが、最初から社長に頼まれたから来ただけですし」
「そうか……では、君に頼みがある。今回を含め五回、時間を取ってもらいたい」
「五回ですか?何の為かお聞きしても?」
「私にとって結婚は面倒この上ない。だが、周囲はそう思っていない。早く結婚させようと躍起になっている。だからこの見合い話を利用させてもらおうと考えた」
藤森さんはそもそも結婚願望はなく、お見合いも避け続けていたらしい。
だが今回、先に見合いの話を耳にしたので先手を打ったようだ。
「父から当分こんな話を持ってこさせないように、数度会ってみたがやはり結婚は向かないと思わせたい」
「それで5回ですか」
「ああそうだ。父には週末に入っていた仕事関係の予定をすべてキャンセルされてしまってね。時間はある」
しかし、こんな肩書を持っていて忙しいだろうに、週末に休みを入れさせて見合いを強行させるほど、どれだけ息子に結婚してほしいのだろうか。そう思うと、騙してしまうことに罪悪感を覚える。
だけど、彼の立場は跡取りだ。父親としては早く結婚して孫の顔が見たいと思う。でも、藤森さんは「後継問題は弟がいるから気にしてない」と言い切った。
本当に独身主義の仕事人間なんだな。
こんな事を聞いたら、両親も私が結婚しないことを言わないまでも、心の中では色々と考えていそうだ。
「大変ですね。私で良ければ協力させていただきます」
藤森さんのお父様には申し訳ないけど、私も尚哉を嫉妬させるためにも藤森さんを利用させてもらおうか。まあ、尚哉がどう思うかなんてわからないけど。
「では、夏姫さん。来週から頼む」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
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