4.お見合いは楽しい?

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「でも、藤森さんのような素敵な方なら結婚する気はなくてもお付き合いされている方とかいらっしゃるのではないですか?」 「いや、このところ仕事が忙しくてね。もう何年も女性とは付き合っていないな。君こそ彼氏がいるんだろう?君のような美しい女性が一人とは考えられないからね」 「お世辞はいいですよ。でも、そうですね。彼氏は…その……」 「いるんだろう?」 「いるかと聞かれればいますが、少し微妙な状態でして……」 「微妙…とは?」  そう聞かれて、初対面にもかかわらず、ついつい話してしまった。  尚哉の浮気疑惑を。  自分よりもだいぶん年上の人に話していると、なぜか解決しそうな気になってしまう。そんな訳はないんだけど。  それに、このお見合いが終われば二度と会うことはないと思うと、話してもいいかなとも思ってしまった。 「それで夏姫さんはどうしたいんだ?」 「クロなら別れます。それこそ本命だと言われても生理的に受け付けられません。でもシロなら疑ったことを謝ろうかと。それで許してもらえないなら、彼にとって私の存在はそれまでだったと諦めます」 「そんなにあっさり決めていいのか?」 「疑惑を抱いてから数日しかたっていないですが、クロなら半年前からの関係ですよ?許せる度合いは超えています。というか、私は一度でも嫌です」  この顔合わせの後は、ホテルの上階にある和食レストランで食事をすることになっているらしく、予約時間まではここで話をすることになった。  最初は緊張して話せるのかと思ったけど、どういう訳か藤森さんと話をするのは楽しい。気負わなくてもいいというのはこんなにも楽なのだろうか。  尚哉のことを愚痴ってしまったから打ち解けたとか?いや、それはそれで恥ずかしい。  その藤森さんは、初対面だけどイケメンを鼻にかけている訳もなく、年齢差を気にするわけでもなく、私のくだらない話でもちゃんと聞いてくれる。  まあ、一つ言うなら、表情の変化はあまりない。  そういえば、リエースの御曹司は仕事にも女性にも厳しく冷徹極まりない。感情を表に出すことは一切ない仕事の鬼だと父が話していたような気がする。それがこの人なのか。だけど、今はその口元もわずかに緩んでいるように感じる。あっ目元もかな?ただ、すごく僅かだからわかり辛い。  うん。普通ならわからなそう。  この店のロイヤルミルクティーは美味しい。お代わりをしようと思ったけど、シンプルなブレンドも飲んでみたくなり、追加で注文をしてしまった。  この茶葉はここで売っているらしい。帰りにでも買っていこうかな?  そんなことを考えながら紅茶を口に含むと、その姿をじっと見ていた藤森さんは「美味しいか?」と聞いてきた。  その返事は一択。「美味しいです」でしょ。  予約した時間まであと少しだとふと視線を外へ向けると、テラス席にいる男女の姿が目に留まり、思わず息をのんだ。 (なんで?)  視線を逸らせないまま、その言葉が頭の中で何度も繰り返した。 「夏姫さん?どうした?夏姫さん?夏姫?」  藤森さんが何度も私の名前を呼んでいるがそれも耳に入らず、ただ二人の姿を見ていた。  藤森さんが私の視線の先にいる二人に気が付き、何かを感じ取って私の顔をのぞき見るように頭を動かした事に気が付いて、私は二人から視線を外した。 「藤森さん。出ましょう」 「ああ、そうしよう」  そう言って藤森さんは私の手を引きガーデンラウンジを後にした。
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