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「大丈夫か?」
声を掛けられていることに気が付いたのは、別階にある和食レストランの個室の中だ。
藤森さんが水の入ったグラスを両手で包み込むように持たせてくれたことで、手に伝わる水の冷たさが私の止まっていた時計の針を動かした。
ガーデンラウンジを出たところまでは覚えているが、この瞬間までの記憶は曖昧だった。
「夏姫。もしかして、あれが君の彼氏か?」
「…他人の空似でなければそうですね」
「それで、あの女性が浮気相手?」
「…間違いないと思います」
岩城さんのSNSのページを開けてみると、そこには新たに写真とメッセージがアップされていた。
【彼と一緒に花筏でアフタヌーンティー。今日はフォレスタでお泊り】
その文章を読んで、落ちに落ちていた気持ちがさらに落ち、喉が締め付けられるような感覚に襲われた。
その写真には、さっきまでいたラウンジのテーブルとそこで見たカップも写っている。
その投稿を見た藤森さんは、私と一緒になって怒ってくれたが、彼は感情が表情に出ないタイプみたいで、本当に怒っているかは微妙だ。でもあの二人に対して嫌悪感は抱いてくれているのは間違いないだろう。
そして私の手からスマホを取り上げ、画面を消した。
「こんな男は早く別れた方がいい」
その声はさっきまで話していた時よりも冷たく語気が鋭い。藤森さんも不快な感情を持ったことがわかって、なんだか少し冷静になれた。
「まずは何か食べよう。お腹が空いていてはこれから何をすべきか考えられないだろう」
私は藤森さんのその言葉に頷いて、目の前に並べられた料理に箸を進めた。
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