5.夏姫の一日

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「なっちゃん?」  目の前から歩いてきた花柄のワンピースを着た女性が、私を見てそう呼んだ。一瞬、誰??と思ったけど、その人懐っこい笑顔を見てすぐに思い出した。なぜここに?? 「澄夏ちゃん」 「懐かしー、こんなとこで会うなんて」  坂上澄夏ちゃんは母の姉が嫁いだ家の姪っ子で伯母の義妹の子だ。遠い親戚なのかな?  伯母様は義妹と仲が良くて、伯母の子の花鈴ちゃんとも澄夏ちゃんとも、子供の頃によく一緒に遊んだ。  澄夏ちゃんは私より五つ上で、いつも妹のように可愛がってくれて、姉のいない私にはいつも澄夏ちゃんに会うのが楽しみだった。  でも、結婚して旦那さんの転勤先に行ってからは、時々連絡するだけで会ってなかったんだよね。 「元気そうだねー。なっちゃんはあのマンションにまだ住んでるの?」 「そうだよ。あの場所、職場にも近いし駅もそれなりに近いし、便利なんだ」  そのまま立ち話もなんだろうと近くの店に入った。何年ぶりだろうかと昔話に花を咲かせ、今何をしているかで盛り上がる。やっぱり澄夏ちゃんは頼りになるお姉さんって感じだな。  今日は久しぶりに実家へ帰ってきて、ここの近くの友人にお祝いを届けに来た帰りにバッタリ…ということだけど、そんな偶然はいつでも歓迎だ。 「シェアハウスを経営してるの?」 「経営なんて立派なものじゃないよ。まだまだ改善の余地ありなのよね」  澄夏ちゃんの話では、管理しているシェアハウスに入居しているのはシングルマザーの人が中心らしく、色々な支援情報や育児の不安を話し合ったりできるような場になればとシェアハウスを始めたらしい。 「なっちゃんも一度、うちに遊びにおいでよ」 「そうだよね。転勤先に行ってから顔も見せてないもんね。私も今、色々あってさぁ…、落ち着いたら連絡するね」  久々に会った澄夏ちゃんは昔と変わらず元気いっぱいで、私としてはまだ話足りなかった。でも、この後に予定があるらしく、残念ながら早々に切り上げた。  落ち着いたら必ず遊びに行くと約束して駅で別れ、それぞれの方向の電車に乗った。通勤ラッシュに比べると乗客は少ないけど、休みだけあって家族連れが多い。何処に行ってきたのかな?楽しそう。  それにしても、今日は嬉しい再会だったなぁ。
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