5.夏姫の一日

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 マンションに戻って澄夏ちゃんとの話を思い出し、いつ遊びに行こうかと考えた。  この調子で尚哉のことが片付いたら、来月には行けそう。秋が深まる頃には行けるかな。うん。今のうちに予定を入れておこう。  スマホのカレンダーに【澄夏ちゃんに会う】と書き込み、これで後回しにせず実行できそう、と頷いた。  このマンションに引越しした時、澄夏ちゃんが引越し祝いだって言ってプレゼントしてくれた額に入った押し花アートは今も大切に飾ってある。  1LDKだからダイニングテーブルをどうしようかと思ったけど、食事もできるし、ゆっくりとティータイムも楽しめる。それに勉強にも使えるから今思うと、これは買ってよかったものの一つだ。  その横にある三人掛けのソファーも、澄夏ちゃんが必要だって言い張ったんだけど、その理由が「私が泊りに来れないじゃない」これには驚いた。うん。楽しい思い出だ。  でも、その澄夏ちゃんのおかげか、どうかはわからないけど、二人で一緒に選んだこの部屋に置いてある家具は、今でも大切に使っている。勿論、買って後悔したものは一つもない。  そのダイニングテーブルに手に持っていたキーホルダーをすべて外して並べた。  キーリングには家の鍵に実家の鍵、職場のロッカーの鍵、ジムの鍵、兄から貰った万能ツールにUSBメモリー、バッグホルダーに買ったり貰ったりしたキーホルダーが3つ。  そして今日買ったリエースのキーホルダー。  悩みながら、兄からの万能ツールとUSBメモリーは外し、キーホルダーもリエースと革にイニシャルが彫られたもの2つだけ付けることにした。  でも、USBなんて、どうして付けていたんだろう。  それでもあまり減った感がしないけれど、まあ、いいだろうと割り切った。  明日の仕事に備えて、忘れ物のないようにに準備をしてスーツも出しておく。その方が朝になって焦ることがないから、毎日のルーティーンになっていたりする。そんな時に尚哉からメッセージが届いた。 尚【お見合いどうだった?断ったんだろう?】 夏【相手の人が、すぐに断るなって言われたみたいで何度か会うことになったの】 尚【何度か会うってどういうこと?】 夏【何度もお見合いするのが面倒だから、次回までの時間稼ぎの手助け?ちゃんとお礼するって言ってたし】 尚【何だよそれ。仕方ないな。夏は頼まれたら断れない性格してるからな】 夏【会うのは土曜だけだし。尚哉は昨日はどこ行ってたの?】 尚【昨日は大学の同期から頼まれて、朝からずっと代々木でイベント参加。疲れたよ】 夏【へぇ、代々木かぁ。大変だったね。でも、今度の土曜は予定入れてた?】 尚【夏とどこか行こうと思ってたんだ。日曜が空いてるならどこか行こうか】 夏【そういえば、最近出かけてないよね。尚哉、忙しかったもんね】 尚【ああ、そうだな】  突っ込みどころ満載のあるやり取りだ。  何が同期だ。何が代々木だ。  イライラし始めた時にピコンとスマホにメッセージが届いた。藤森さんからだ。 【話していた人物の連絡先だ。名前は野元(のもと)だ。信頼できる相手だから安心するといい】  そのメッセージの後に野元さんの携帯番号やメッセージアプリのIDが添付されていたので、早速メッセージを送ってみた。 【初めまして。藤森さんから紹介を受けました日向と申します】    とりあえず挨拶を……と送ったのだが、すぐに既読が付いた。そしてあっという間に返事が届いた。 【藤森から伺っています。日向夏姫さんですね?野元と申します】  丁寧にあいさつをされ、ある程度は藤森さんから聞いているようで、あとの必要な情報を教えるとすぐに調べるとのことだった。費用はいかほどかと聞いたけど、【私と藤森との仲だから費用はいいよ】と返ってきた。  いやいや、そういう訳にはいかないと食い下がったものの、押し切られてしまった。    今度藤森さんに会った時にしっかりと費用の件は話し合うことにしなければ。
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