7.鷲生SIDE

1/7

13170人が本棚に入れています
本棚に追加
/301ページ

7.鷲生SIDE

 また父が見合い話を進めているらしい。  あれだけ断ってきたのに懲りないものだと思うが、姉や弟が結婚していることで安心しきっていた事がいけなかった。  だが、今回は話を進める前に耳にしたことで、自分の都合のいい相手を選ぶことができそうだ。  断ることを前提にして、相手にもその事を伝えておけばいいだろう。  最初から話を進める気がないのがわかれば、向こうにとっても楽だろう。  しかし、簡単に考えていたら、父からはすぐに断るなと厳命され、当分の間の土曜に入っている私の案件をすべて振り分けてしまっていた。  暗に、一回で断るなと言っているのだろうが、正直面倒だ。  どんな女性が来るのかわからないが、父から頼まれている瀬田社長に期待するしかない。  当日は、ホテルフォレスタのラウンジ【花筏】で待ち合わせをしてから、上階のレストランで食事をすることになった。  瀬田社長には、最初から二人で会ったほうが気を使わなくてもいいだろうと理由を付けて、同席を断った。どうせ断るのだから、余計な人間は邪魔なだけだ。   ガーデンラウンジの予約した席に向かうと、その席には清楚で控えめという表現にピッタリの女性が座っていた。  女性の名は日向夏姫という26歳の女性で、瀬田社長とも付き合いのある白石建設の社員だった。    自分の名刺を渡しても、その役職に感心はするものの興味は無いようで、今まで知り合った女性たちにはいなかったタイプだ。 「この見合いを進めるつもりはない」と言うと、「安心してください。私もです」と返事が返ってきたのだ。  自慢ではないが、私は自分の容姿にも家柄にも地位にも自信があった。だから、最初から断ると明言してはいたが、正直、一度はごねられるかするだろうそう思っていたから、まさかこうもあっさりと同意するとは思わなかった。  それが自分の自尊心に傷がついたような気がした。それも悪い意味ではなくいい意味でだが。
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13170人が本棚に入れています
本棚に追加