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 年末になった。  受験シーズンが近づくのに加え、正月休み前の出稿ラッシュで、多忙を極めていたある朝。  美紗子は、借りている駐車場で偶然一緒になった節子と二人で出勤してくると、いきなり節子が主任に呼ばれた。  若干の怒気を含む主任の言葉を、節子は黙って聞いている。 「何かあった?」  先に出勤していたハルくんに訊く。 「あ、はい、ちょっと……」  彼はそう言って顔を顰め、席を立って節子の隣に走っていき、 「主任。それは僕が……」  何か話し始めた。  ぶっきら棒な喋り方だったが、一生懸命何かを訴えている。  それが周囲にも伝わってきて、他の社員も、心配そうに彼を見守っているふうだ。 (ハルくんらしいね。この1年で、ずいぶんと頼もしくもなったよ)  若干ハラハラしつつも、そんな思いで彼を見ていると、ひと通り聞き終えた主任が、 「わかった。まぁ、そういうことなら。二人とも今後は十分に気をつけて」  仕方ない、というような微笑を向け、席に座った。 「庇ってくれてありがとう」  席に戻りながらハルくんに手を合わせる節子に、彼は手を振って、 「いいんです。いつも助けられてばっかりだし、僕は正社員ですから」  と笑って見せる。 (あ……)  あの笑顔が節子に向けられ、胸がザワつく。  同時に、自分の知らない二人の事情を、ハルくんと節子が持っているような感覚に、胸が締め付けられる。 (嫉妬してる?)  たまらず、 「どうしたの?」  隣の自分の席に座ったハルくんに問うと、 「私が昨日までに出さなきゃいけない原稿の校正が間に合わなかったの。その事で、いろいろ影響が出ちゃってね」  反対側の席から節子の声。次いで、 「僕が田中さんに渡すのが、いつも遅いから。負担かけてしまってるんです」  ハルくんが、美紗子越しに節子に頭を下げて見せた。 「あぁ、いいよ。気にしなくて。それより、ホントありがとうね!」  節子はそう言うと、机上の書類を整理し始めた。
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