花がざわめく

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 黄色の瞳を宿らせ、銀縁眼鏡を掛けた青年に見下ろされたティアルは困惑と同時に赤面をしてしまった。自分がコソドロだと言っていた人間が、まさかこんなにも美形だとは思わなかったからだ。泥棒といわれているぐらいだから、もっとやさぐれたおじさんなのかと思い込んでいたのである。 (この人が、この人が、タイムキーパー(時間泥棒)。すごく……、)  ――かっこいい。 「ふぅ~ん、君もそんな顔ができるのか~。無表情ではあるけれど、顔がまっかかだ」 「なぁっ!?」  声を荒げてはたじろぐティアルに、タイムは余裕の表情を見せる。鼻筋が通り、肌が透明で白い彼の顔立ちに、彼女は不覚にも、またときめいてしまう。  ――そんな彼らのもとへ1匹の鳥が入ってきた。庭園から侵入してきた黄色のセキセイインコは「ピィ」と鳴いてからティアルの肩へそっと乗る。可愛らしく首を傾げてすり寄り、そのインコはティアルの頬に触れた。太陽のような香りのかぐわしさに、彼女はくすぐったさと共に安心感を抱きそうになる。紅潮した頬に触れられたので、お返しにティアルはインコの腹部に触れようと――。 「ふふっ。さすがに可愛らしいレディでも、僕のカラダは触れさせられないな~」 「えっ、インコが、喋って――」 「タイムも、自分のそんなな顔で彼女の涙を奪おうと思わないでよ。恥ずかしい」  すると太陽のような存在は彼女に礼をしてはばたき、タイムの肩にもそっと乗る。しかし今度は可愛らしい鳴き声ではなく「ギィヤ!」とはしたない鳴き声を上げたのだ。「なんで俺の時は媚びずに嫌な鳴き声を出す? うるせぇな~」と言ってタイムはインコのくちばしへ指で弾くと今度はかみついてきたのだ。 「いっだぁ!? なにする、このクソ鳥!」 「ふんっ。君の厳つい肩よりも可憐なお嬢様の細くて小さな肩の方が乗り心地いいの~。だから君はモテないのさ」 「さっきから俺様が黙っているのはどうしてだ~? このクソ――」 「僕はルゥっていう、かの北欧の神話で有名な太陽神、バルドルの”ル”をもじってルゥって名付けられた鳥さ」 「そんな覚えはない」 「い~や、この太陽のように煌びやかで荘厳さが放つ様相は絶対にバルドルだよね~。いや~、名付けてくれてありがとうね~、タイム」  するとタイムは間を置いてにたりと笑った。 「あれれ~、バルドルってなんだっけっか~?」  するとルゥも対抗する。 「君って本当に無知だよね。ムカつくぐらい」 「てめぇ……」  ……なにこの状況?  さすがにこの事態をティアルは受け入れがたい。なぜならば、そこにはカオスが広がっているからだ。今見ている光景は、イケメンだがキザなインコへブチギレかけている時間泥棒に、女性に対しては紳士だが、タイムに関しては厳しすぎる態度を見せる黄金の鳥で人語を放すインコだ。そんな両者にティアルは困惑で埋もれかけているのだ。  ――今ならば、になってしまった。
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