第1話 《夢》判断

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 ……どうやら”悪夢”を見ているらしい。なぜなら、よく見る夢のよく見る舞台に立っていたから。でもいつもと違うのは、今回の夢は複数人ではなくて、1人だということ。 「お前さ~、本当に自分が”看護師”に向いていると思っているの?」  ……俺は崖の上に立っていた。目の前には男が立っていて、そいつは俺に詰め寄って来ている。そいつは口元がひどく歪んでいて、俺を責めるように迫ってくるのだ。  じりじりと少しずつ崖の先まで追い詰められていく俺に、そいつは淡々と告げていく。 「周りが優秀なくせに、自分がバカなくせに。なにもできない出来損ないがその場所に居るなよ。自分ができる人間だなんて思うな、クズ」  ”バカ”だの”出来損ない”だの、そいつは罵って笑いながら近づいてくる。でも反論ができないのは、崩れ落ちていく崖の先端に自分の足が付いて逃げだせない。そしてそいつの言葉が覆せない己自身。それでも俺は負けずに、傷つけてくる俺と背格好の似た人間へ小さな反撃をする。――それしか自分の反論が言えないから。 「俺は、クズじゃない」  俺の発言にそいつは分かり切っていたように肩を震わせ嘲った。 「あぁ、クズではないかもしれないな。でも、お前はね」  ――欠陥品なの。 (俺は、欠陥品。そうか……俺は、学業にも実技演習にも、なんにもついていけない)  ――ただの欠陥品で、看護師なんて向いていない。看護師なんて崇高でしなやかで図太い人間にはなれない。  俺は思い知った。自分の立ち位置を、無知さを、手に届こうとしても届かないと知る。そんなの自分でもわかっていたのだから。 「まぁそんなわけだからさ~、お前はイラナイ。イラナイ人間」  ――処分しなきゃ。  するとそいつは、俺の肩を軽く押したのだ。突き飛ばされたという感覚はない。でも落ちていく感覚はあった。  でもそれよりも。ただ、そいつの顔が、ひどく歪んだ顔をして泣き出しそうな…、  ――自分自身だった。
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