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「それで、気が付いていたら男のくせに泣きじゃくっていたわけ?」
「……はい」
医務室にて。椅子に座っている看護師かつスクールカウンセラーの豊橋は、目の前にいる生徒、乾 利里へ息を吐く。学校に来て早々「話したいことがある」と言われて医務室で聞いてやったら、また同じ話をされたからだ。この”崖から落ちる夢”も嫌になるほど聞いている。…だがそれでも、黙って傾聴をするのは、自分がスクールカウンセラーをしているからでもあるし、生徒の利里がまた泣き出しそうな顔を見せているからでもある。
(めんどくせぇけど、またあの話でもするか)
すると豊橋は普段から利里へ話している内容を示した。それは豊橋が精神看護に携わっているからの話である。
「お前さ、”夢分析”の話は知っているよな?」
――”夢分析”
かの有名な心理学者、フロイトという人物が提示した精神医学の話で、元祖とも提唱されている。スクールカウンセラーの豊橋が話を畳みかける際に使用する手法の1つである。だから利里は深く椅子に座り直したかと思えば、げんなりとした表情を見せた。
「……豊橋先生が大好きな、あの話ですか?」
「夢判断を知っているのなら話は早い。夢は自分の中で睡眠を満足させるのに自身の願望を夢に宿す。つまりだ。お前は自分の中で看護をやめたい気持ちを消化させるために、夢として表現をした。そして、心の”自傷行為”を夢が守ってもくれているわけだ」
……心の自傷行為か。
彼の言葉に昔の自分の大きなキズを、胸に…ではなく自身の手首に触れた。そこはドクドクと脈打つ橈骨と尺骨動脈が交わった場所である。すると彼はまた青い顔をして吐き出しそうな顔をした。
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