ポケットの中の恋人

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 一年前、ヒロくんは事故にあって死んだ。 「一人だと危ないから」  と私を送り届けてくれたあとのことだ。  ただいまの連絡がなかったから待っていたら、朝になって、着信があったから出たら、事故の知らせだった。   あなたがあの日私に貸してくれたコートは、形見になってしまった。  バスを降りて、公園を歩く。  散歩にデートに通勤路。二人でよく歩いたね。  あなたは歩くのが早かったから、あなたの一歩を、私は二歩で追いかける。 「あっ、ごめん」  何に対してかが、抜けてる。  ヒロくんはいつも言葉足らずだ。   「ううん、いいよ」  でも気づいてくれる。それでいい。  不意に「レナ」と名前を呼ばれた。  ──気のせい? 「レナっ」  今度はハッキリ聞こえた。 「ヒロくん!?」  やっぱり。ヒロくんの声だった。 「ここだよ」  そう言われても。  声を頼りに辺りを探す。  街路樹の下、近くの茂み、公園のベンチ。  ここだよ。の声はどこから聞こえてるの?  立ち止まり耳をすます。  もしかして。  コートのポケット? 「……ヒロくん?」 「久しぶりだね、レナ」  そこには小さくなったヒロくんが……いたわけではない。ポケットの中から、声だけが聞こえてた。
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