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温かいコーヒーを買ってベンチに座った。
どうしてこうなったのか。
ヒロくんはよく分からないという。
自分という存在が『そこ』にある感覚で、声を出したら私に届いたらしい。
「幻聴だと思ったわ」
「ごめん」
「怒ってるわけじゃないの。驚いただけ」
「レナは相変わらず、冷静だな」
「そうでもないよ。私だって泣いたり笑ったり」
コーヒーの蓋を開ける。
冬の寒空に、白い湯気が舞った。
温かな香りを口に運び、言葉を続ける。
「落ち込んでいたけど、今は嬉しいと思ってるわ」
「そっか」
ヒロくんの返事はそれだけだった。
「そう見えない?」
我ながら配慮の足りない言葉かな。
「大丈夫。レナが今どんな気持ちか、ぼくがどんな気持ちにさせたのか、よく分かってるつもりだよ」
そうなのだ。
私は幼少期からあまり感情を出すほうじゃなかったし『そういうものか』と受け容れるのも早かった。
氷の女王。とあだ名をつけられていた私に、彼はいつも寄り添ってくれていた。
「ヒロくんはいつも言葉足らずだったけど、私のこと想ってくれてるのは分かってたよ。ありがとう」
声だけの彼との会話なのに、心が通じあったことを実感する。
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