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アパートに帰ると、コートをハンガーにかけた。
「苦しくない?」
なんとなくそう聞いてしまう。
「平気。レナは一人暮らしはじめたんだね?」
「うん。半年くらい前かな」
「……今ってさ」
何かをいいかけたヒロくんが口ごもる。
「誰とも付き合ってないよ。まだ一人」
「そっか」
顔は見えないけど、なんとなく。
ホッとした声のトーンだった。
「寒くない?」
「少し冷えるかな」
「ポケットにカイロ入れようか?」
右と左どっちだろう。と迷っていたら「冗談だよ」と返された。
はじめてヒロくんの冗談を聞いた。
コート、テーブルをはさんで私。
向かい合って食事をする。
「自炊してるんだね」
「もしかして見えてるの?」
「見えない。だけどレナがごはんを食べてるのは分かるよ」
「お腹空いたりしない?」
「そういうのはないんだ」
不思議なもので、付き合っていた時よりも自然な会話ができている。
面と向かっているのでもなく、電話とも違う。
距離感っていうのかな。何だか心地いい。
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