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食事が終わりテレビをつける。
お互いに口数が少なくて、テレビの音だけが部屋に響く。
ヒロくんの声は、私だけに聞こえてるのかな?
とか思ったが、特に確かめる気もなかった。
不思議な同棲生活がしばらく続いたある日。
嫌な夢をみた私は飛び起きてヒロくんに話しかけた。
「ヒロくん、起きてる?」
返事がない。
ベットに戻ろうとすると「レナ」と呼ばれた。
「起こしちゃった?」
「起きてたよ。ずっと起きてた」
ヒロくんの言葉に、心なしか覇気が無い。
「泣いてるの?」
なぜかそんな気がした。
彼は「怖いんだ」とつぶやき、言葉を続けた。
「ぼくがこうなってからは、眠いとか疲れたって感覚はないんだ。
でも寂しい、不安って感情はちゃんとあってさ。
時々思うんだ、これはレナの夢の中の出来事で、レナが目覚めたら、ぼくの存在は無かったことになってしまうんじゃないかって」
いつもより饒舌なヒロくん。
きっと今までも、言いたいことを我慢してくれていたんじゃないのかな。
「そんなことない。私も怖い夢をみたの。ヒロくんとこうして話をしているのが、全部夢だったって、そんな夢を見ちゃったの」
せき止めていた感情があふれた。
赤ん坊のように泣きじゃくり、コートを抱きしめた。
ヒロくんは、頭を撫でることも抱きしめることもできないもどかしさを、必死で伝えてくれた。
「ぼくがこんなになってしまっても、ぼくの声に気づいてくれて、ぼくを見つけてくれて、忘れないでいてくれて、本当にありがとう」
「当たり前じゃない」
ああ、やっぱり私は、この人を好きになってよかった。
こんな形になってからお互い本音で語りあえることができるのは、よかった。
少し遅かったけど手遅れじゃない。
そんな気がしたのだ。
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