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「それじゃ、フェイドラ、あとでお迎え、お願いね」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ、マスター、お嬢」
「ありがとう、フェイドラさん」
赤いSUVが角を曲がるまで見送ってから、私は改めて目の前にある、和風な建物の入口を見あげた。
私は、とあるおうちの前に立っていた。
閑静な住宅街にある、立派なおうち。門構えもしっかりしている。
周囲を見ても、そこそこに大きなおうちが、生垣に囲われていたり、真っ白の壁があったり……いわゆる高級住宅街という場所だ。
「拓人さん、このおうちは?」
「私やタニさんにとっての、恩師というか……作曲家の先生のおうちよ」
「ほえ~……」
そもそも、私がなぜ、この場所にいるんだろうか?いや、いてもいいのか?
すっごい疑問なんだけれどなぁ。
と、うしろから声がかかる。
「よー、藤宮。来ていたか」
振り向くと、そこにいたのは谷山慎二さん。拓人さんの友人で、お仕事仲間でもある。いつもの黒いジャケットにジーンズという、ラフなスタイルだ。
「今、着いたところよ」
「お、葉月ちゃんも一緒だな」
「あー、はい。いいのかなって……思っているんですけれど」
と、私が言うと、拓人さんと谷山さんはにっこり笑って、
「だーいじょうぶだって」
「先生、喜んでくれるわよー。かわいい女の子、大歓迎だから」
と、言った。
ふたりはそう言うけれど、私は未だに、その「先生」のことを何も知らないのだ。でも、拓人さんは言った。
「ふふふ……先生の曲はきっと、葉月さんも知っているわよ?」
「え?そうなの?」
「そうだな。あの人の作品は、巷に溢れているからね~」
谷山さんは、そう言って微笑んでくれる。
玄関のインターホンを押すと、女性の声が返ってきた。拓人さんが自分たちの名前を告げると、歓迎するような返事。それから、すぐにカチンッという金属音がして、玄関の格子が開いた。
拓人さんと谷山さんが入っていくので、慌てて私も一緒に中へ。
こぢんまりしたお庭が広がる。
家の周りは生垣。そして、小さな日本庭園。
でも、私たちが通されたのは、また別の庭に面した部屋で、そこはオモテの日本庭園と違った趣の洋風庭園があった。その庭を眺めている男性は、リクライニングチェアに横になっていた。
「中野先生」
拓人さんが声をかけると、椅子に座っていた男性は視線をこちらに向けてくれる。
「おお、谷山くんに藤宮くんか。いらっしゃい」
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