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おっとりとした好々爺……という雰囲気の、小柄なご老人は、拓人さんたちを認めると、身体を起こした。
「ご無沙汰しております、先生」
「今日はタニさんと一緒に参りました。お加減はいかがですか」
「うん。おかげさまで、今日は随分と気持ちがラクだよ」
腰を下ろしながら話しかける。さりげなく、谷山さんが、ご老人の身体を支えていたりして、何度かここにきているというのがわかった。と、ボケっとしていた私に、気づいたみたい。
「そちらのお嬢さんは?」
「あ……えーっと…」
と、拓人さんが私に目で合図する。そそそっと彼の隣に寄る。
「前にお話しした彼女です」
「おお、藤宮くんと一緒に暮らしているという娘さんか」
思わず背筋が伸びた。
「あ、初めまして。水本葉月です」
ペコッとアタマを下げる。
「うんうん、話しは聞いているよ。僕は、中野明知と言います。初めまして」
とても優しい笑顔で、自己紹介してくれた。穏やかな表情のやさしい、おじいちゃま……という感じがする。
谷山さんが教えてくれたのだけれど、中野先生は作曲家。ジャンルは多岐に渡っていて、J-POPから歌謡曲、演歌、童謡、アニメやゲーム、ドラマ、CMなどなど……私も聞いたことがあると、拓人さんも言っていたけれど、話しを聞いてびっくりした。
確かに聞いてみると、あれもこれも……と、私でもわかる作品名が出てくる。
「いやぁ、僕は作曲の何でも屋だからねぇ」
ニコニコと笑顔でお話ししてくれる。なんか……なんか、落ち着く。ほんわかした雰囲気を纏っている方だなぁ。
拓人さんと谷山さん、そして中野先生は穏やかに話しをしている。
ああ、いいな……こういうの。
独特の仕事ではある……拓人さんたちのお仕事。
でも、私たちの生活に、なくてはならない「音楽」という分野。
そういった世界を「創造する」クリエイターたち。
ああ、そうか。
私は、そういう人たちの中にいるんだな。
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