永遠の音色~空から響く声~

5/8
前へ
/8ページ
次へ
「へぇ……」 あの日の翌日、拓人さんが貸してくれたのは、中野先生の携わった楽曲が収められた2枚組のCD。私は自分が持っているポータブルプレイヤーにそれらをDLして、仕事の合い間、家事の間、または自室にいる時などに聴いていたのだけれど、確かにびっくりしたのだ。  あれも、これも……私でも知っている楽曲がいくつもあったから。 「あ……これ、拓人さん…?」 とある曲、うたう声に聞き覚えがあった。どう考えても、この声は拓人さん。 「あー、やっぱり心地よい声」 その楽曲の雰囲気にあった、優しく、透明感のある声色。目を閉じて聴いていると、アタマの中に、楽曲の内容が浮かぶようだ。  リビングのソファにゆったりと腰かけて、のんびりと過ごしながら、中野先生の楽曲を聞き入る。  言霊師という、不思議な仕事に携わるようになってからしばらく経つ。  しゃべること、うたうこと……日常生活で、至極当然のことではあるのだけれど、言葉っていうのには、ちゃんと、意味がある。でも、まだまだ、私は勉強不足というか、経験が少ない。仕方ないことなんだけれどね。焦っても仕方ないことなんだけれどね…… 「ん?」 目を閉じていた私の頬に、ちょんちょんと誰かが…… 「ああ、マカニ、ヴァイ」 【ハヅキ、あそぼ、あそぼ♪】 イメージングカードが入った箱が、微かに光っている。特に私になついてくれているのは、「水」ヴァイ、「風」マカニ。 「んー、遊ぶっていっても…今は音楽、聴いているんだけれどなー」 【おんがく?タクトのうた?タクトがうたってる?】 「拓人さんのうたもそうだけれど、他にも色々なヒトがうたっているの。一緒に聴く?」 と、私が質問すると、マカニとヴァイはくるくると宙を舞う。  はいはい、一緒に聴きたいのね。  マカニもヴァイも、音楽というものは理解できているんだと思う。というのは、たとえば、1階のお店で、お客様の入っていない時間、作業しながら店内で音楽を流していると、イメージングカードのみんなが具現化して、はしゃいで飛び回っていることがあって、それがリズムを取っているようにも、踊っているようにも見えるからだ。 【~♪】 ヴァイは、まるでうたうかのように、そしてマカニは風に舞い、踊る。  おもわず、その光景に頬が緩んでしまった。  ああ、そうだよな。音楽って「音を楽しむ」んだよね。  いつのまにか、私も口ずさんでいた。  中野先生が携わった楽曲には、私も知っている曲がいくつもあったからだ。  言の葉、うた、曲……  楽しい。  あ、なんか……少しだけ、わかったかも。  拓人さんが、時々、家の中でもうたっている気持ち。  彼は、仕事以外でも、うたうことは大好きだと言っていた。  声を出すこと、うたうことは、気持ちを解放することに繋がるんだ。  まぁ、プロである拓人さんには到底、及ばないけれどね。  私も嫌いじゃないみたい、うたうこと。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加