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「へぇ……」
あの日の翌日、拓人さんが貸してくれたのは、中野先生の携わった楽曲が収められた2枚組のCD。私は自分が持っているポータブルプレイヤーにそれらをDLして、仕事の合い間、家事の間、または自室にいる時などに聴いていたのだけれど、確かにびっくりしたのだ。
あれも、これも……私でも知っている楽曲がいくつもあったから。
「あ……これ、拓人さん…?」
とある曲、うたう声に聞き覚えがあった。どう考えても、この声は拓人さん。
「あー、やっぱり心地よい声」
その楽曲の雰囲気にあった、優しく、透明感のある声色。目を閉じて聴いていると、アタマの中に、楽曲の内容が浮かぶようだ。
リビングのソファにゆったりと腰かけて、のんびりと過ごしながら、中野先生の楽曲を聞き入る。
言霊師という、不思議な仕事に携わるようになってからしばらく経つ。
しゃべること、うたうこと……日常生活で、至極当然のことではあるのだけれど、言葉っていうのには、ちゃんと、意味がある。でも、まだまだ、私は勉強不足というか、経験が少ない。仕方ないことなんだけれどね。焦っても仕方ないことなんだけれどね……
「ん?」
目を閉じていた私の頬に、ちょんちょんと誰かが……
「ああ、マカニ、ヴァイ」
【ハヅキ、あそぼ、あそぼ♪】
イメージングカードが入った箱が、微かに光っている。特に私になついてくれているのは、「水」ヴァイ、「風」マカニ。
「んー、遊ぶっていっても…今は音楽、聴いているんだけれどなー」
【おんがく?タクトのうた?タクトがうたってる?】
「拓人さんのうたもそうだけれど、他にも色々なヒトがうたっているの。一緒に聴く?」
と、私が質問すると、マカニとヴァイはくるくると宙を舞う。
はいはい、一緒に聴きたいのね。
マカニもヴァイも、音楽というものは理解できているんだと思う。というのは、たとえば、1階のお店で、お客様の入っていない時間、作業しながら店内で音楽を流していると、イメージングカードのみんなが具現化して、はしゃいで飛び回っていることがあって、それがリズムを取っているようにも、踊っているようにも見えるからだ。
【~♪】
ヴァイは、まるでうたうかのように、そしてマカニは風に舞い、踊る。
おもわず、その光景に頬が緩んでしまった。
ああ、そうだよな。音楽って「音を楽しむ」んだよね。
いつのまにか、私も口ずさんでいた。
中野先生が携わった楽曲には、私も知っている曲がいくつもあったからだ。
言の葉、うた、曲……
楽しい。
あ、なんか……少しだけ、わかったかも。
拓人さんが、時々、家の中でもうたっている気持ち。
彼は、仕事以外でも、うたうことは大好きだと言っていた。
声を出すこと、うたうことは、気持ちを解放することに繋がるんだ。
まぁ、プロである拓人さんには到底、及ばないけれどね。
私も嫌いじゃないみたい、うたうこと。
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