永遠の音色~空から響く声~

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 中野先生が息を引き取ったという知らせが来たのは、あの日からしばらく経ってからだった。  拓人さんと谷山さんがお通夜からお店に戻ってくる。  リビングのソファに座ったまま、ふたりとも言葉もない。  目を閉じているのは谷山さん。  天井を見つめているのは拓人さん。  帰宅してから、ふたりとも言葉が少ない。  コーヒーを淹れて、ふたりの前にそれぞれ、置く。  どれくらい、沈黙の時間があっただろう。不意にその静けさを破ったのは、谷山さんだった。 「藤宮、おまえさぁ……わかってたんだろ?」 決して拓人さんを責めている言葉ではなかった。谷山さんは、ただ、知りたかっただけなんだろう。もしかしたら、ずっと聞きたかったことなのかもしれない。 「わかっていても、それを口にしてはいけない。ヒトとして当然のことよ」 その答えは、非常に穏やかなものだった。谷山さんは、目を開けて、向かいに座っている相手を見る。天井を見たままで、拓人さんは続ける。 「私は……からね……」  拓人さんが何を知っていたのか?  もともとが、不思議な能力を持っている人……だと言えば、なんとなくお分かりいただけるかと思う。彼と付き合いが長いという谷山さんは、そういったことも含めて、理解しているからこそ…… 「でも、先生、いいお顔、していたわ。とっても穏やかで」 「……そうだな。全部、やりきったっていうのか……人生を全うしたんだっていうか……俺みたいな若造が言うことでもないかもしれないが……」 ふたりの話しを聞いていると、お会いした時の中野先生の笑顔が思い出される。  たった一度しかお会いできなかったけれど、あの穏やかな話し方、笑顔。  私は、施設育ちだから、実際の祖父という人はわからないけれど、もしかしたら……おじいちゃんって……あんな人だったのかな…だったらいいんだけれどな。  コトン、という音がしたので、顔を上げると、フェイドラさんがガラスの酒器を持って立っていた。私は立ち上がり、トレイごと受け取ると、盃を拓人さんと谷山さんの前に置いて、カラになったコーヒーカップを片付ける。  目の前に置かれたものをしばらく見ていた拓人さんは、盃を谷山さんに手渡して、お酒を注ぐ。谷山さんも、拓人さんの盃に返杯。 「お嬢も」 と、フェイドラさんが盃を差し出す。  拓人さん、谷山さん、フェイドラさん、そして、私。それぞれに盃を手にして、お互いの顔を見た。小さく頷いたのは拓人さん。 「献杯」 その言葉で、私たちは盃のお酒を飲み干した。
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