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「うた、曲……音楽って、たとえ作曲者や作詞家の先生が亡くなっても、そのうたをうたってくれる人や演奏してくれる人がいる限り、永遠に残るものだと思うのよね……」
カラになったグラスを手にして、揺らしながら、拓人さんは言った。
なんだか聞いたことあるなぁ、どこだっけ?なにかの雑誌の記事だったかな?と、思った私は、それを口にしていたらしい。
「なんか、どっかで聞いたことのあるフレーズですねぇ」
「ああ、確かに。こういうのって、繰り返されるものだからね。永遠に残るもの……それらを、ずっと……未来永劫、観ていく、観ていることしかできない立場もある」
「え?」
また不思議なことを…と、顔を上げる。グラスの中の氷を見ている拓人さんの横顔は、何とも言えず……困ったような、悲しいような、嬉しいような……複雑な気持ちが入り混じった表情に見えた。
時々、わからなくなる。
いつもそばにいてくれる人なんだけれど、時々、ふと……私の手が届かない場所にいるような感じにもとれるから。
そばにいてくれるけれど、いつか、手の届かない場所へ行ってしまうんじゃないのか、と……
私が言葉を探していることに気づいたのか、拓人さんは視線を上げて、私の顔を見て、ニコッと笑って、
「お水、もらえるかしら?」
と言った。もう、いつもの彼の表情に戻っている。
頷いて、グラスを受け取り、立ち上がった。
「~♪」
拓人さんが小さく、口ずさむ。
グラスの中に無糖炭酸水を注いで、拓人さんの前に置く。
小さくうたう声だけれど、とても綺麗な、透き通った声。
大好きな声。
拓人さんが座っているそばに、そっと腰を下ろし、うたう声を聞く。
中野先生も、褒めて下さったという、その声が、風に乗って行くように、宙を舞うように……コトバを紡ぎ、風に乗って、空の向こうへ響いてゆく。
音楽は永遠。
うたってくれる限り、演奏してくれる限り、誰かが繋いでくれている限りは、ずっと……残る。
空の向こうへ。
永遠の時の流れに乗って。
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