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我が家に帰ってきて木箱と封筒をしばらく眺めていた。
『太田義徳』と『吉田喜美子』とはいったい誰なのか、なぜこんなものをロッカーに入れその番号のメモをポケットの中に貼るなんて手の込んだことをしたのか。
試しに二人の名前を検索してみても何も出てこない。
「やっぱりこの手紙を開けるしかないか」
丁寧に糊付けされた封筒を開けると一枚の手紙が入っていた。
手紙には達筆で文字がびっしりと書かれている。
『このロッカーを開けた方へ
この手紙を読んでいるということはあのメモを見てここへ来てくれた方でしょうか。
わざわざ来て頂きありがとうございます。
もしそうでない方ならこの手紙も木箱も捨ててしまって構いません。
私は太田義徳といいます。歳は78歳、と言ってももうすぐ死ぬ身ですが。
実は末期がんでもう間もなく死ぬのです。そこで最後にやり残したことを考えた時、ある人のことが頭に浮かびました。
その人と私の関係を話すと長くなってしまうので割愛させて下さい。
ただ私の人生で一番大切な存在と、書いておきます。
その人というのは『吉田喜美子』という女性です。
歳はおそらく私と同じくらいでしょう。
その方に同じロッカーに入れておいた木箱と手紙を渡して頂きたいのです。
ただ渡して頂くだけで構いません。
不躾なお願いだとは重々承知しています。
なぜこんな手の込んだことをしたのか、と疑問に思うでしょう。
なにぶん生涯独身を貫き身寄りもおらず、こんなことを頼める人間がいなかったのです。
ですので面倒であれば手紙も木箱も捨てて頂いても構いません。
ただこの老いぼれの最後の願いを叶えていただけるのならどれだけ感謝の言葉を並べても足りないくらいです。
どうかよろしくお願いします。
太田義徳』
手紙の一番下には住所が書かれている。
おそらくこの『吉田喜美子』という女性の住所なのだろう。
「赤の他人に託してまで渡したいものって一体なんなんだ…?」
木箱はだいぶ色褪せていて年季が入っているのが見て分かる。
自分の死期を悟り誰かに預けてでも渡したかったんだな。
そんな切実な願いを簡単に捨てられるほど薄情な人間ではない。
「とりあえず今日はもう遅いから次の休日に行ってみよう、この吉田喜美子さんの所へ」
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