第6章 懐かしき館で待つものは 6-1 暴く

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 どうにかジーンからナイフを奪って拘束を解くつもりだったが諦めた。  もっと手っ取り早い方法にする。  ビリーは手のひらに風を集め、いくつもの緑がかった透明の刃を作り上げた。目視しないと方向を定められないため、無軌道に射出する。  風の刃は、ビリーの手指を幾度も傷付けながら麻縄を断ち切った。  拘束が緩んだのを感じ、ビリーは即座に血にまみれた拳でジーンのこめかみを打ちぬいた。不意はついたが、拘束されていたため力がうまく乗らない。殴った手をジーンに掴まれてしまう。 「手癖が悪いな」 「もっと悪いよ」  ビリーは掴まれていない方の手をジーンの口の中に突っ込んだ。叫ぶ。 「裂けろ!」  麻縄を切ったのと同じ風の刃をジーンの口腔で炸裂させる。湿った嫌な音がし、ビリーの手とおびただしい量の血が吐きだされた。  ジーンは仰向けに倒れ込み、痛みに顔面を掻きむしった。何か喋ろうと血の泡を吹いている。  身体を起こしたビリーの目に、地面に落ちている小さなナイフが留まる。  父兄の仇を討て、という天啓(てんけい)に思えた。  両手は自分の血とジーンの血で真っ赤に染まっている。
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