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「は、何も知らないんだな」
ジーンは憐みの目を向けた後、発作的に哄笑した。狂った笑い声が石壁に反響する。
「俺が火をつけなくとも婚約は破棄になってたさ。お前の親父と兄貴が急に猛反対しだしたからな。皇帝陛下に見初められたなら、俺なんかに娘をくれてやる道理はないしな」
何から何まで初めて聞かされる話だった。
だがもっとも引っかかったのは一番最初。
「俺が火をつけなくとも」?
「……あんただったのか。父上とビリーを殺したのは!」
頭の中に焼き鏝を入れられたかのように、ビリーの視界が熱く爆ぜた。力づくで拘束を解こうとするが、麻縄がよりいっそう手首に食い込む。
「殺したのは俺じゃない! 眠らせた親父を地下の貯蔵室に閉じ込めたのも、兄貴を風術で切り刻んだのもあの化け物だ。俺はボヤを起こしただけ。屋敷があんなに燃えたのは、あいつが風術で延焼させたからだ。俺は悪くない。お前と別れたくなかったから、ちょっとした抗議のつもりで火をつけただけなんだ!」
ジーンはビリーの肩を掴んで揺さぶり、唾を飛ばしながら激しく言い立てた。
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