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「だろ?でも本当は違うんだ。あることを隠すために“出ていくのを禁止してる”んだよ。なんだと思う?」
「う?」
あることを隠すため?首を傾げる僕に、セイくんは声をひそめて言ったのだ。
「出ないんじゃない、本当は誰も出られないんだよ。つまり、この町の人達はこの町に閉じ込められてるんだ。親父が自分で試したつーから間違いない。町から出ようとすると、見えない壁に阻まれて出られないんだと。……町の外の人は、自由に町境を超えたり戻ったりできるってのに」
「えええええ!?」
そんなバカな、まるでファンタジーじゃないか――と大きな声を上げかけて、ギリギリで踏みとどまった。そもそも、巨大消しゴムが出現している時点でファンタジーになっているのは明白である。あるいはSF。見えない壁が現れるくらい、なんてことはないのかもしれない。
しかしこれで納得できた。あくまで“出ないように禁止している”ていうことにしておけば、誰も町境を無闇に超えない。そうすれば、町が物理的に閉鎖されて出られなくなっていることにみんな気づかず、パニックを防ぐことができるだろう。
だが。
「……そんなの、いつまでももたないよ。そのうち誰かが気づいちゃうって」
僕の言葉に、それなあ、と彼は天を仰いだ。
「その前に警察は事件を解決したがってるけど、うまくいくかどうか。町のどこに消しゴムが現れるかもわからないから、対処しようがないってのが実情みたいで。屋内にも現れるしな。あ、あと駆けつけた警察官が発砲したけど、びくともしなかったらしいぞ」
「うっそ」
「思った以上に敵は強大なのかもなあ。人をこの町に閉じ込めて、町の住人をかたっぱしから消しゴムかけて消すなんて、そんなのまるで神様がやってるみたいな……」
そこまで言いかけて、セイ君の言葉は不自然に止まった。彼は口をぱくぱくさせて、真っ青な顔で固まっている。どうしたというのだろう。明らかにそれは――何か気づいてはいけないことに気付いてしまった、というような顔で。
「どうしたの、セイくん?」
僕の言葉に彼は、いや、でも、と首を振りながらぶつぶつと呟く。
「や、さ、さすがにそんな現実離れしすぎてる。そんなバカなことってあるかよ?そんな理不尽な……ああ、いや、でも……消しゴムだろ?消しゴムで人を消す理由って、そんなの……しかし……」
その次の瞬間だった。今度は隣の教室から、悲鳴が聞こえてきたのである。こちらに逃げて来た少年の一人が叫んだ。
「け、消しゴムが出た!きょ、教室に、あいつが出たんだよおおおおおおおおおお!!」
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