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自分でも、失敗だったかなとは思ったのである。
ノートに書かれた“春風町住人一覧”の文字。ずらずらと並んだ名前を眺めながら、私はため息をついた。
――やっぱ、人数多すぎたよね。
主人公、春日井康太。その親友、夏樹静。彼らを主人公とした、小学校における青春と冒険の物語を描くにあたり、小さな町の住人を大量に考えて設定を考えたのだ。
しかし、小説講座の先生にはずばっと言われてしまった。名前のついている登場人物が多すぎる。貴女の小説は、その固有名詞キャラクターをちっとも回せていない。もう少し登場人物を減らして、狭い空間で話を動かさないと読者を混乱させてしまうだけだ、と。
――確かに、話もとっちらかってたし。せっかく主人公決めたのに、彼等が霞んじゃうくらい他の人の話も増えちゃったしなあ。……エピソードとかはあとで削るとして、まずは誰を減らして残すのかをちゃんと考えなきゃ。
とりあえず、五年三組のキャラクターを二人くらい消そう。私は消しゴムを手に取ると、書かれていた名前の中から“龍田まいり”と“愛川幸也”の名前を見つけ、消していくことにする。
丁寧に丁寧にかける消しゴム。私の小説の世界から、彼等が消していく。増えすぎた登場人物を減らし、物語をスリムにするために。
「ばいばーい」
呟きながら、もう一度主人公とその友人の名前を見た。
よく考えたら、物事をクールに考察して動かしていくのは静の方だ。康太が聞き役に回りすぎて魅力がない、というのも先生から言われていたこと。もういっそ、静を主人公にして康太を消してしまうのもありだろうか。静には他にも友達はいるし、聞き役はモブにすればいいかもしれない。
そして康太がいなくなれば、もっと物語の分量は減らせるはずだ。
「それもいいかも」
私は一度置いた消しゴムを、もう一度手に取ったのだった。
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