お隣の絃くん

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お隣の絃くん

 小学校に入学して初めての恋。初めての手作りクッキー。(しょう)くんはカッコよくてみんなに優しくて、教室で見かけるたびにときめくし、目で追ってしまうのは、完全に恋というものだと思っていた。そんな彼にあたしはバレンタインの今日、告白する。  帰ろうとしていた翔くんに思い切って声をかけた。 「あ、あのっ、翔くん。ちょっといいかな?」 「え?」  教室内だと周りの目が気になってしまうから、あたしは手招きをして誰もいない廊下の端っこに翔くんを呼ぶ。  着ていたコートのポケットにそっと手を忍ばせてクッキーを取り出すと、思い切って翔くんの前に差し出した。 「これ、良かったら食べてっ! 形は悪いけど、一生懸命作ったから……」  恥ずかしくて翔くんの顔が見れずに俯いていると、降り注いできたのは想像もしていなかった言葉。 「えー、俺手作りとかキモくて食べらんない」  「じゃあね」と、あっさり翔くんの気配が遠のいていく。  俯いた顔を上げられなくて、でも、悲しいと言うか、悔しいと言うか、惨めと言うか。なんとも言えない気持ちになって、涙は出てこなかった。
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