プロローグ

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「ねえ、なんで海はしょっぱいか知ってる?」 「知らない」 「もー。そうやって突き放す。ちゃんと私の相手してよね」  むすーっと頬を膨らまし、サラサラと長い髪を揺らす。  突き放すって。本当に知らないのだからそう答えるしかない。 「じゃあ、海の底に永遠に塩が出る石臼があって、それでしょぱいんじゃないの」  何かで聞いた童話をそれっぽく語ってみる。うん、明らかにテキトーだ。 「おお、いいねその答え。悪くない」 「マジかよ」 「でも、石臼ってロマンがないな。もっと君は私がうっとりするような答えは用意できないのかな」  ちっちっち……と指を振る。なんだよ、うっとりするって。 「じゃあ海底に永遠に塩が出るガラスの瓶がある、とか」 「もう、それ石臼をガラスの瓶に変えただけじゃん。はぁ。君の想像力のなさには本当がっかりだよ」  何も悪いことをしてないのに勝手にがっかりされてしまった。 「じゃあ何かうっとりするような理由を答えられるのか?」 「もちろん。答えはね、『人魚の涙で、海はしょっぱい』でした~!」 「……え?」 「……え?」  いや、え?じゃないだろ。 「海水は全て人魚の涙ってこと?」 「うん」 「海って地球の地表の七割を占めてるんだぞ。人魚が一万人いたとしても、せいぜいバスタブくらいにしかならないだろ」 「も~、本当そういうところだよね。君はもっとユーモアを持って考えないと。頭でっかちくん!」 「悪かったな頭でっかちで」 「地球って何億年もの歴史があるんだよ。人魚が一人しくしく泣いて、それが大海になっていく。そういうことだって、あるかもしれないでしょ」 丸い瞳を片目だけきゅっとさせる。 「あるかな」 「あるよ!だって」 そう考えた方が、面白いじゃん! 「はっ」  頭をぽりぽりかく。  ――夢、か。  『人魚の涙で、海はしょっぱい』でした~!  だからなんだ。意味がわからない。  さっさと起きて学校の準備しなきゃ……。 「え」  その時、つぅーっと頬に生暖かいものがつたう。 「お、俺、泣いて……」
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