2.連想部

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「なんだここ……」  埃っぽく、壁にはシミができている。周辺には地図や資料のようなの物が散らかり、お世辞にも綺麗とは言い難い。 「さあさあ座って~」  机と椅子が対面のように並べられている。教室にも置いてある、普通のものだが……。 「じゃあ活動を始めよう」 「はぁ」 「人魚は、なんで泣いたのだと思う?」 「……え?」 「もー。あれだけ話したのにもう頭から抜け落ちたの?海がしょっぱい理由だよ。どんどん掘り下げていくの!」  そんなこと掘り下げて、何の意味があるんだ。 「そんなの、悲しいことがあったからじゃないの」 「え~? それ本気で言ってる?」  田畑さんは外国人のように大げさに「はぁ」と肩をすくめると、指をピンと立てた。 「青木くんはどういう時に泣くの?」 「……悲しい時」 「確かに悲しい時涙は出るよね。でも考えてみて。怒った時、嬉しい時にも、涙って出るよね」 「まぁ、そうだな」 「なんなら、玉ねぎを切ったり欠伸をした時にも、涙って出てくる。不思議だと思わない? 感情が喜怒哀楽、どれかに振り切ったら涙って出てくるし、何か刺激があれば、感情と関係なしに涙って出てくるんだよ」 「そうだな」 「だから、人魚はどうして大海を作るほど泣いたんだろう。どういう感情だったんだろう。青木くんの言うように悲しいことがあって泣いたのかもしれない。何か嬉しいことがあったのかもしれない。怒りだって湧いていたのかも。それとも、永遠に玉ねぎを切ることになって感情は関係ないのかもしれない。いや、永遠に玉ねぎを切らされることになったら怒りだって湧くか」  へへへ、と笑う。 「海が塩水なのは人魚の涙ってのは固定なんだな」 「え?」 「他の理由はなしというか、人魚ってのは決定なんだなと思って」 「決まってんじゃん。そんなの、そう考えた方が、面白いじゃん!」  ――そう考えた方が、面白いじゃん!  言葉を、失う。  やっぱり田畑さんって……。 「いつだって面白いことを考える方が、楽しいからね」 「……そう、だな」  それ以上何も言えなくなって俯いてしまう。 「じゃあ続きを考えて行こう!」  ノートとペンをカバンから取り出し、表紙をめくって「涙」と中央に記した。
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