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「お疲れ青木くん」
「お疲れ」
椅子に座り、ふわりとほほ笑む。
「じゃあ火曜日の続きをしよう」
ノートを開く。中央にある「涙」に枝が伸び、「悲しい時」「怒っている時」など感情や「刺激がある時」などがカテゴライズされている。
「あ、あのさ」
「ん?」
「田畑さんは、嫌じゃないの?」
「え?」
「いや、ほら、俺、冴えない男子だし。こないだ、真司から『お前は50メートル離れたらイケメン俳優の福なんとかの雰囲気に似てる』って言われたくらい、微妙な奴なわけで、そんな俺と二人で部屋で何かしてるって周りにバレたら、噂とかされるだろうし……」
「噂なんて、どうでもよくない」
触ったら切れてしまいそうな、鋭利で冷たい声だった。
「え、ええ」
「そうやってゴシップに飢えてる奴らなんて頭が悪いに決まってるし、そんな奴らにいろいろ言われたところで気にならないでしょ。それに私たち別に悪いことしてるわけじゃないし。それとも何? 青木くんは私といるのが恥ずかしいの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……周りとかあんまり興味ないし」
「そう。ならその質問は何の意味もないってわからない?」
「ご、ごめん……」
そんなに怒ると思っていなかったので、俯いてしまう。
「まぁ、いいけど。後、『50メートル離れたらイケメンの雰囲気に似てる』って言われたって普通に自慢じゃない?」
「自慢なのか? あんまり言われて嬉しくなかったけど……」
「褒め言葉よ、それ。だって別に、青木くん50メートル離れていてもイケメンのオーラ出てないし」
「そ、そこまで言う? 俺にだって心はあるんだぞ!」
「はは。まぁイケメンではないけど、面白い人ではあるから。面白オーラが出てるよ」
「面白オーラ……」
「化け物とか怪物に似てるって言われるより、そっちんが言われて嬉しいでしょ」
「それは……そうだけど」
再び俯く。
「まぁ私としては面白青木くんが部員になってくれたのを心から喜んでいるの。そんなこと、言わないで」
「う、うん……。ごめんな」
「わかってくれたならいいの。さ、火曜の続きをしよう」
シャープペンシルをカチカチッと押す。
フェードアウトをどうやってすればいいのだろう。俺はずっとここにいるつもりはない。
それに、田畑さんはたぶん……。
「涙」の周りに分岐している枝が、虫の足のように見えて、なんだか化け物みたいだなと思ってしまった。
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