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田畑さんの瞳がカッと開く。
「前から思っていたんだ。海がしょっぱいのは人魚の涙、これは、俺じゃなくて、美穂が昔俺に言っていたことなんだ」
田畑さんは、夢にも出てくる美穂をなぞるかのような言動をたくさんしていた。
「苗字は違うし、顔もそんなに似てないけど……髪型は同じだし、姉妹かな、って」
苫田美穂子……美穂は空想が大好きな、俺より二歳年上の女の子だった。
髪が長く、サラサラで、とても優しく、隅っこで一人微笑んでいるような、そんな子。
学校はちがったけど、習字教室が同じで、帰りが一緒になった時は話しながら帰っていた。
「習字教室の帰りにいろんな空想をしていたんだ。空が青いのはなんでだろう。風はどこから吹いているのだろう。そして……海がしょっぱいのはなんでなんだろう、って」
空想はいつも楽しかった。空が青いのは天には無数のサファイアがあって輝いている、風は、北極にいる天使が一斉に羽ばたいてこちらに風が運ばれてくる。
――海がしょっぱいのは、人魚の涙で、しょっぱい。
「他の人がやっていたらバカバカしいと思えるようなことでも、美穂の発想はなんだかキレイで自然とわくわくした。美穂はいつも、『そう考えた方が面白いじゃん』って言ってて」
「それで、私が同じようなことを言うから、みいちゃんと姉妹だと思った、ってこと?」
俺は黙ったままうなずいた。
「バカじゃないの」
「え」
「まず、姉が美穂子で妹が未歩って、そんなもろ被るような名前、つけるわけないでしょ。顔だって全然ちがうし。苗字がちがうから親が離婚したのかな、とでも思った?悪いけど、みいちゃんと私に血のつながりはないよ」
はぁ、と息をつき、睨むようにこちらを見る。
「私とみいちゃんは、同じアパートに住んでた。みいちゃんはいつも私を可愛がってくれた。私はみいちゃんが大好きだった。なのに、あんな死に方をして……」
顔を真っ赤にさせ、体を震わせている。
「自殺、だよな。確か、一酸化炭素中毒で……」
「……みいちゃんは、あんたのせいで、死んだんだ」
凍てつくような声に、俯く。
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