4.告白

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「俺は確かに、美穂の前で、『俺、この人のこと、知らないから』って冷たく言い放った。美穂の味方だった、はずなのにな」 「なんで、そんなこと言ったの? 友達だと思っていたやつから裏切られたらどういう気持ちになるか、わかる?」 「……本当、俺は自分勝手、だよな。俺はあの時、自分の保身のためにああ言ってしまったことは否められない」  小学四年生の頃。習字教室の帰り道。美穂と俺が帰っている時だった。気の強そうな女子五人に突然囲まれた。 「『あんた、男連れて一緒に習い事行ってんの? この男たらしが』『本当に気持ち悪い、この男好き』『ラブラブでいいご身分ね』って口々に言われて。俺、怖くなって『この人のこと、知らない』って言って逃げたんだ。そしたら一週間後、美穂が自分の部屋で自殺して……俺のせいだ、俺があの時美穂を庇わなかったから、美穂は死んでしまったんだ、って……」  体がガタガタと震える。 「ずっと、あの日からそのことを後悔していて……今でもたまに見るんだ。美穂の夢。一緒に空想をすることもあれば、『信じていたのに』って責められることもある。だから、田畑さんが俺の前に現れて、美穂と同じようなことを言うから、『俺は罰せられるんだろう』と思って……この意味不明な部活も、きっと美穂の自殺に関連する人間をあぶりだすために作りだしただけで、きっと実態はないんだって……だから、少しずつフェードアウトして、田畑さんと少しずつ距離を置こうと思っていたんだ」  きっと怒っているのだろうけど、田畑さんの表情から感情が読みとれない。  本当に、俺が思いを吐露して気持ちよくなっているだけだろう。でも、最後まで伝えたい。 「でも今……俺は……美穂のこと、ちゃんと知りたい。あれからいろいろ考えたけど、俺、美穂のこと、本名と習字を習っていたってことと空想が得意で優しい子ってくらいしか、知らなくて。俺が追い詰めたのはそうだけど、普段どんな風に学校に行ってたかとか、俺らを囲んだ気の強い女子たちは誰なのか、とか。あの時、保身のためこの人のこと知りませんって逃げたけど、ちゃんと美穂のこと、知っているって胸を張って言うためにも、ちゃんと知りたいな、って……」 「……そう」  無表情のまま、田畑さんがじっと見る。 「私も、あんたと同じ」 「……え」
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