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「知らないものは知らない。いいだろもう。俺は課題チェックして日誌書かないといけないんだ」
「そんなの大した仕事じゃないでしょ」
ケラケラと笑う。
「何がおかしいんだ」
「それか、あなたの想像力が乏しくて言うことがない、とか?」
「……人魚の涙で、しょっぱい」
「ん?」
「ほら言ったからもういいだろ。どっか行けよ。部活とかあるだろ」
「今、人魚の涙でしょっぱい、って言った?」
「そう……だけど」
「すごい!ベストアンサーだよ!やっぱり私の目に狂いはなかった!」
田畑さんがキラキラと目を輝かせる。
「ベストアンサーなのか、これ」
「ベストアンサーだよ!答えにロマンを感じる!長い時間をかけて人魚が泣き続け、大海をつくる。想像しただけでワクワクしてこない?」
まだ何も書いていない日誌をカバンに入れ、課題をまとめて持ち上げる。
「すごいワクワクする。じゃあ俺、日誌と課題を職員室に持って行くから。それじゃあ」
「ちょっと待って!」
ガシッと腕を掴まれる。咄嗟の事に、体が硬直する。
「連想部に入ってよ」
「……はぁ?」
なんだ?レンソウブ?聞いたこともない。
「ちょうど部員がほしかったの。ね、お願い」
「俺、忙しいから……」
「帰宅部なんでしょ。自己紹介の時言ってたじゃん」
ああ。なんで部活入ってませんってあの時言ってしまったんだろう……。
「ね? 入ろ! 私たち、もう友達じゃん!」
――もう友達じゃん! って。
課題を机の上に置き、田畑さんと向き合う。
「友達になった覚えはない」
「今のまま放課後家に帰ってゲームするだけの日々と、私と部活する日々だったら、絶対後者の方が楽しいと思うな」
弾む声に、俯いてしまう。
田畑さんがヤバい奴なのは確かだけど、ここで断った方が後々面倒なことになるような気がしてきた。ここはとりあえず。
「入るよ」
「おっ! そうこなっくちゃ」
田畑さんは手を合わせ、ニコニコ笑っている。
「活動日はね、毎週火曜と木曜!つまり今日はないけど明日からね」
「今日ないのかよ」
「おおっ! 早速今日からやりたかったってこと? なんてやる気に満ちた新入部員なの!」
「別にそういうわけじゃないけど……。毎日あるものなのかと」
「まぁやる気に満ち溢れるのは結構なことだけど、火曜と木曜しか活動しないから。ごめんね! じゃあ、明日からよろしくね!」
田畑さんは笑顔でスキップしながら教室を出た。
「……はぁ」
真っ白な日誌とまだ途中までしかチェックできていない課題の山を見て、これからの自分を憂いてしまった。
まぁ、何日か行ったら、適当にフェードアウトするつもりではあるけど。
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