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「お疲れ様でしたっ!」
出演者の控室として使っている応接室の中、児童養護施設の担当者の方と挨拶を交わす。
「いやぁー、マジックカッコよかったですよ!子供たちも喜んでいました」
こういう感想は素直に嬉しい。
今日のステージで起こっていた非常事態については内緒にしておこう。
全てが計画通りの演出だったと思わせた方がエンターテインメントとしては成功だ。
話を続けながら今日の手品道具の整理を続けていると、ポケットの中に見慣れない紙が入っているのに気が付いた。
おかしい。
手品道具は自分で手入れをしているから、俺の知らない物が入っているはずはない。
妻にさえ触らせていないくらいだ。
訝しみながら取り出して見ると、それは二つ折りにされたメモ用紙だった。
開くとメッセージが書いてあり読んでみる。
『パパのてじなが じょうずにできる おまもり』
娘の字だ。
いつの間に?
朝からの事を思い返してみる。
あ、玄関先で抱きついてきた時か!
全然気が付かなかった。
抱きついたことに意識を持って行かせて、その隙にメモ用紙をポケットに入れたんだ!
手品師を騙すとは、さすが手品師の娘。
しかし、このお守りのおかげか、今日のショーは上手くいった。
娘はこの先、手品に興味を持つだろうか?
素質は十分にある。
将来が楽しみだ。
了
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