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離宮水晶球の間
と、言う訳でまた力を貸してほしいわけよ
前王妃ラメルの隣には前王が額を押さえながら佇んでいる
「大丈夫ですって、こうして使いを飛ばしてくれるって事は、ブルースあたりがもう動き出してくれてるはず…」
貴方!少し黙っててくださる?私は古いお友達とお話ししているのですから!
「はあ…すみません…」
夫婦とは言え、二人の力関係は冒険者時代から全く変わりないようだ
ここは離宮の中でも隠し部屋の類、水晶球の間
隠し部屋だからなのか?簡素な石造りだ
存在を知るのは上皇と上皇妃、そしてこの部屋を作るのに尽力してくれた鍛治ギルドのマスターと四人の伝説級冒険者だけなのだ、が
「それがねー、ブルースが珍しくやる気になっちゃっててねー、もう出かけちゃった」
水晶球に映る旧友、黒髪の美少女魔導師が呆れたように告げる
因みにこの水晶球なる魔導具、この大陸全土を探してもこの部屋と旧友のところにある2つしか存在しないそうだ
どんな魔術を使っているのか?出会った時と殆ど変わりない…いや少し色香が増したミュールからその秘伝を聞き出したいと思っていたが
その真紅の唇から出た名前に、ラメルはその形の良い眉を顰めた
血の気の多いルーミアあたりが飛び出して行きそうだから釘を刺しておこうと思っていたが…よりによって一番物静かな薬師が動くとは
正直悪い予感しかしない
公的にはフェリーリ再興の英雄に名を連ねていないが、彼女の中ではブルースこそが真の、そして唯一の英雄だと思っているのだ
建国後も表に出せない汚れ仕事の大半は彼の仕事で、自分が頼んだ事象もあるのだ。普段から飄々と請け負ってくれるが、彼が何らかの咎を受ける時には自分も甘んじて受けなければ…そう固く誓わせるだけの腕利き冒険者だ
…まあブルースが仕損じる事など考えられない事ではあるが
その代わりとんでもない報酬を要求される事もあるにはあるが
それはミュールやルーミアにも同じ事が言える
だから彼等が晴らせぬ恨みを安価で受け合っている事にも、上皇妃としては許されざる行為ながら目を瞑っている
ブルースが?大丈夫なの?
思わず言葉にしてしまったが、其の実心配なのはブルース本人ではなく相手の方だ
普段物静かな人間が怒る事が一番危険だと知ってはいるし、彼には一国を滅ぼすくらい何でもないだけの実力があるのだから
現に再興の際魔神王と対峙した時に…これならルーミアあたりが暴れる方が遥かに安全だと思わせるだけの、剣聖の名に恥じない冒険者なのだ
「大丈夫でしょ?やり過ぎないようにソフィが釘刺してたし、それくらいの分別は…ある、かな…」
「まぁ心配しなくても仕損じる事はないから安心しておいてよね、じゃあ」
ラメルが更に言い募ろうとした瞬間に、旧友との交信が無情にも切られた
「ああ、まぁ…俺達に出来るのは…あいつがやり過ぎないように、神に祈るくらいじゃないの?」
そんな呑気な発言をする夫に、今度はラメルが額を押さえる事に…
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