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依頼人
「酷い有り様…」
これがジョーンズ商会の代表、アメリアの開口一番に紡がれた言葉だ
隊商の目の前には、本来なら小さめの集落があり、道中必要な食料や水を分けてもらう予定だったのだが
眼前に広がるのは何もかもが黒焦げになり、住居の原型さえ留める事が許されない、焼け焦げた廃墟だった
「野盗の仕業、じゃないわよね…?」
自身も冒険者の一員、死体を見るのは無論初めてではないし、彼女自身が死体を作った事も勿論あるのだが
「どれだけの恨みを買ってたのやら…違う…これは…」
無意識の内にアメリアは身震いしていた
どう見ても無抵抗だったであろう年端もいかぬ子供達まで切りつけられた痕があるのだ
「…何をブツブツ仰ってるんですか?危ない人みたいですよ?」
背後から掛けられた言葉に、アメリアは文字通り飛び上がった!
さっきまで誰の気配も感じる事もなく、魔力探知にも何の反応もなかったのに!
大慌てで振り返る彼女から少し離れた位置に、浅葱色に白色の、本人曰くキモノと言うらしい、を身に纏った黒い短髪の森の民の男がきょとんとした表情で立っていた
両手に持った籠にはいつの間に集めたのやら、薬草と毒消し草が山となって盛られていた
「ブルースさん…」
そう安堵する彼女の背後に居たのは薬師ギルドと冒険者ギルドから唯一の護衛役として派遣されて来た、薬師のブルース
ランクとしてはアメリアより下の彼だけが今回の隊商の護衛役とは…
しかし祖父母と両親からのお墨付きとあっては、彼女としては信じるしかない
「驚かせちゃいましたか?すみません…あ、ここの井戸は全部使えそうですって報告に」
それと…と声を急に潜めたかと思うと…
この先の平原に教国が陣取っているとのこと
因みにその平原も彼女らの母国、フェリーリ皇国の国土で間違いないはずだ
「恐らくですが…黙って通してはくれないかと…ついでにですがこの村を焼いたのも、教国の仕業で間違いないですね」
ブルース曰く、燃え落ちた家屋から漂う油の匂いが主に教国で流通している、特殊な油なのだそうだ
何故そんな事情を一介の薬師が知っているのか?
それがアメリアの表情に出ていたのだろう
「僕は薬師ですから、色んな事を知っておかないとクビにされちゃいますので」
と、何故かドヤ顔で返されてしまった
それが何故か可笑しくてアメリアは思わず吹き出してしまった
「い、今のは褒めてくれるトコロですよ、アメリア嬢!」
何故だろう
自分たちとそう変わらない年齢に見える森の民の所作のひとつひとつから、安心や安堵を感じ取る事が出来るのは
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