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復讐の女神の神殿跡
「話しは相分かった。その恨み、確かに晴らしてあげるから…もうゆっくりお休み?」
その言葉と同時に、老人はその場に崩折れた
顔が微かにほころんで見えたのは気の所為か、満月が見せた幻だったか
かと思うと、見る間に身体が灰化し、折しも吹いて来た微風に乗って夜空に舞っていった
祠に小さな、子供におつかいの際に持たせるレベルの大きさの、袋だけがその老人が存在をしていた証拠だ
「「「「はー…」」」」
若い男女四人の溜め息が、通称復讐の女神の神殿に谺した
「他所の国の国境に無断で入り込んで、その上掠奪なんて…これが騎士を名乗る連中のやる事なのですか、ミュールお姉様?ルーミアお姉様?」
「人間には色々いるのよ、ソフィアーネ?騎士に選ばれたから、自分は特別な存在になったって勘違いするのがね?」
ソフィアーネと呼ばれた、ライトグリーンの髪の森の民の少女は、どうも理由がわからず首を傾げている
「で、どうする?」
ルーミアと呼ばれたプラチナブロンドの森の民の、見た目は二十歳そこそこの女性が祠から小袋を取り上げて、掌で弄んでからミュールへと放る
「私の眷属になった者からの仕事の依頼、か…請けない理由はないわよね?」
ミュールと呼ばれた見事な黒髪の、これまた二十歳そこそこに見える女性が差し出した左手に小袋が吸い込まれるように収まる
「で、どうする?聞いた限りじゃ、的は結構な数みたいだけど…誰が行く?」
「いえ、僕が行きます。的なんか幾つであろうが何の問題もありませんしね」
普段は面倒がって本業以外で遠出したがらない男が珍しく手を挙げた
「ブルー…大丈夫?熱でもあるんじゃない?」
「確かに!それともこの前珍しい薬草見つけたって言ってたけど、自分で試したわけじゃないわよね?」
ソフィアーネに至っては、自身とブルースの額に両の手を当てて熱を計っている…
「別に体調不良じゃないですよ?心配してくださるのは有り難いですが…何の罪もない村をひとつ、しかも隣国のを、焼き討ちにしたと言うのが気に入らなくて、ね。ミュール、その代わりゴーレムを何体か貸してくれますか?」
珍しいブルースの頼み事にミュールの切れ長の目が見開かれる
「そりゃあ、構わないけど…仕事にはゾンビやレイスの方が…」
その言葉にブルースは苦笑して、仕事の後で手伝ってほしいんですよ、とだけ
「ブルー、くれぐれも気をつけて…」
恋人が言い出したら翻意しない事を知っているソフィアーネが声を掛ける
「ソフィ、こいつに限って仕損じる事はないわよ〜」
「そ、やり過ぎ厳禁!森を大事に!」
その言葉にソフィアーネがクスリと笑い、三人の気配は二手に別れて消えた
「アイリ、ひとっ飛び頼まれてください」
ブルースは羊皮紙にペンを走らせながら、使い魔の白い梟を呼んだ
「ブルース様、どちらまででしょう?あんまり遠くだと帰り道が不安なんですが」
ペタペタと足音を立てながら、何処からともなく白く丸い?梟らしからぬ生き物がやって来た
「大丈夫大丈夫、王宮のラメル上皇妃のところですから。あ、帰りはゆっくりで構いませんから泊まって来てくださいね?」
アイリの脚に今したためた手紙を結びながら
「あそこにゆっくり出来る場所…そんなのありませんよ…王女様達に捕まったら離してもらえなくなるんですからね…帰って来たらクリームパスタご馳走してくださいよ?」
アイリはぼやきながらその見た目に見合う巨大な翼を拡げて、夜空に舞い上がった
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