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順風
後ろから手で相手を目隠しして
「だーれだ」
という遊びを、子供の頃にしたことがあるだろう。でも高校生にもなって、背後から俺の制服のポケットに手を突っ込んできて
「だーれだ」
などというバカは、たった一人だ。涌井隆に決まっている。
毎朝、通学時のルーティンになっている。
すごいと思うのは、突っ込んでくるまで全く気配を感じさせない点だ。徒歩で登校中の出来事だから、奴が近づいてきた瞬間に振り返ってやろうと思うのに、どんなに神経を集中しても、俺は涌井の気配を感じ取れない。後ろ歩きをして登校したこともあったけど、あっさりクリアされてしまった
忍者かよ。
今朝もだ
「だーれだ」
もう俺も回避するつもりもない。ヒヤッと冷たい手の感触が、両方のポケット越しに伝わってくる。
「朝からいい加減にしろよ小学生じゃねえんだからさ」
「誰かわからないんだ。島崎君は鈍いね」
「涌井だろ。わ・く・い」
「あったりー」
当たっても涌井はしばらくポケットから手を出さない。電車ごっこみたいに俺の背後をとってくる。
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