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「お前さ、いつからこんな事始めたんだっけ」
「やだなー、忘れた? 小4の時だよ。島崎君のズボンのポケットが暖かそうだったからさ。後ろから手を入れたんだ。そしたら中にフーセンガムが入っててさあ。僕が欲しいな、って言ったら、島崎君がくれたんじゃないか。島崎君、ポケットに入ってるもの時々くれるじゃん。今日はハンカチしか入ってないけど」
「ハンカチはやらねーぞ」
「わかってるよ」
背後から手をまわしてきている涌井は、俺よりも頭一つ小さい。やつのデコがちょうど俺の肩の位置にある。涌井の頭からは、よく洗ってもらっていない犬のにおいがする。
「おまえさ、涌井って、名前倒れだよな」
「どういうこと?」
「湧き水はさあ、温度が一定だから、夏は冷たく感じるし、冬はあったかいんだよ。お前の手は冬はクソみたいに冷たいし、夏は生暖かいし最悪なんだよ」
「ははは。島崎君はうまいこと言うね」
学校が近くなり、登校する生徒も増えてきた。涌井はすっと俺から離れた。
「じゃあね、島崎君」
「ああ」
俺と涌井との交流はこれでおしまい。クラスも別々だから顔を合わせることもない。涌井がどんな学校生活を送っているのか、俺は知らない。
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