20人が本棚に入れています
本棚に追加
夏の夜を盛り上げるのは怪談
7
死体と同じ部屋で食事か、とは思ったけれど黙っておいた。しかしフライドポテトの山が三分の二ほど片付いたころに沢子が、いま気付いたというふうに発言した。
「そういえば、大丈夫っすかね? この部屋でご飯食べて」
視線が例の畳を向いているので、云わんとすることはみなが察しただろう。
「まあ、見えているわけじゃないからなあ……」
顎をさする文丈に、香久耶が「くさいものに蓋ね」とコメントする。
「それは云い方が悪すぎるが……」
「部屋を変えたところで、同じ建物だってことは変わらないからね」
千鶴は気にならないようだ。フォークにフライドポテトをいくつ刺せるか試している。
僕も「位置も対角線上で、離れていますから」と補足してみたけれど、要らなかったかも知れない。一応、死体は広間の南西、食事で囲むローテーブルは北東に位置している。
「そうじゃなくて、祟りとか、障りとかないっすかね?」
「緩やかの奴が化けて出ると云うのか?」
「あったとしても私たちより、殺した犯人の方に行くと思うけど?」
十一本まで刺して限界と見たのか、千鶴はそれをケチャップにつけて口に運んだ。
しかし香久耶が「どうかしら」と首を傾げる。
「あたしたちはいま、緩やかさんに食事を見せつけているようなものじゃない」
「それがどうしたんだ?」
「このポトフ、緩やかさんは食べられないのよ。殺した犯人と、矛先はどちらに向かうのかしらね。食べ物の恨みは、怖いと云うでしょう?」
少しの間、沈黙が訪れた。
「……おい、香久耶。きみのボケはちょっと分かりづらいぞ」
「ボケてないわ。まだこんなに若いんだから」
「ほらまた! それがボケてるだろ!」
文丈は我慢ならないといった様子で立ち上がる。
「もしかして、これがポトフだってのもボケなのか?」
「だから、あたしにとってはこれがポトフよ」
「畜生! 飄々と、すっとぼけやがる!」
そこに沢子も「ぼけやがる、俺はやる、声枯らす、燃え上がる!」と韻を踏んで参戦する。気掛かりはもう解消したようだ。
僕はなんとも云えない気持ちになった。
文丈がやっと腰を下ろしたのは、それから五分ほどやり取りを続けた後だった。彼は腕を組んで「しかし、いいかも知れないな」と云う。
「なにがっすか?」
最初のコメントを投稿しよう!