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「怪談だよ。夏の夜を盛り上げるには、こいつが鉄板じゃないか」
緩やかに落涙が化けて出る云々のくだりから思い付いたらしい。
だが「持ちネタのひとつやふたつ、きみたちにもあるだろう?」と振られても、みなの反応はイマイチだった。「きみはどうだ、浦羽」と名指しされて、僕は考える。
「披露できるような話は特に……そうですね……」
本音ではこの状況と能面の少年のことが頭にあって、さっきから気がそぞろなのだけれど、ひとつ思い付いた。
「昔、小学五、六年のときに、親戚のお姉さんと心霊スポットに行ったことはあります」
「ふむ。それで、なにか起きたのか?」
「よく憶えてないですが……どこかの森でした。車で行ったんですよ。親戚のお姉さんは姉妹で、姉の方が車を運転してくれて。心霊スポット自体は、まあ雰囲気はあったし怖かったと思いますけど、心霊現象みたいなことはなかったですね。ただ、帰りにファミレスに寄ったら、お姉さん二人と僕で計三人でしたけど、店員が水を四人分だしてきました」
「わっ」と沢子が声を出した。
「霊が憑いてきちゃったんすか?」
「ただの偶然だったんだと思いますけど。その後、なにか事故に遭ったりとかもなかったですし。すいません、大した話じゃなくて」
「いいや、気味が悪いのは確かだ。一発目としては良い感じだぞ」
文丈は満足そうに頷いて、次に「宮代はどうだ?」と振る。
千鶴こそ怪談なんて無縁だろうと思ったが、彼女は「あるよ」と返事した。
「本当か? お前からそういう系の話なんて聞いたことがないぞ」
「んー、話してなかったっけ? いま住んでるマンションでの話だけど」
「ないよ。え、いつの話?」
「去年の、十月くらいだったかな。ゲームしててお腹減ったから、私ひとりでコンビニに食べるもの買いに行ったの。零時は回ってたね。それでマンションに戻って、一階でエレベーターに乗るでしょ? そのとき、私に続くように女の子がひとり乗ってきたの」
千鶴はやや斜め上の方を見ながら、淡々と話していく。
「小学校の高学年くらいだったんじゃないかな。なんか、ランドセルを背負ってた気がするんだよねー。リュックだったかも知れないけど、まあ身体も小さかったからさ。髪を三つ編みにしてる子で。顔は憶えてない。俯いてて見えなかったかも」
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