夏の夜を盛り上げるのは怪談

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「ストップ、ストップだ、宮代。それに深夜に小学生がひとりでエレベーターに乗ってきたことは奇妙に変わりないだろう? 良い調子じゃないか。よし、次は沢子だな」 「うちっすか? うーん……」  唇を尖らせて唸る沢子。 「怪談……大胆な、猥談じゃ駄目っすか?」 「なんでだよ。大体なわいだ……韻を踏みたいだけだろ!」 「心霊とかじゃないっすけど、子どものころに不思議なことがありましたねー」  彼女は少し嫌そうな顔をしてから、話し始めた。 「ほんと、小学校一年とかそのくらいっすよ。お家のリビングで、テレビを見てたんです。ママは二階で洗濯物を畳むかなにかしてて、リビングにはうちひとりでした。なんか、子ども番組だったと思うんすよね。お爺ちゃんがいて、周りにうちよりも小さいくらいの子どもがたくさん映ってて、遊んでたんですけど……急に、それまで優しそうに笑ってたお爺ちゃんが真顔になって、映像が全然、動かなくなったんすよ」 「テレビが止まったということか?」 「そういうわけじゃなかったと思うんです。完全に停止してるんじゃなくて。映ってるのはお爺ちゃんの横顔だけで、そのお爺ちゃんが黙っちゃってるんですよね。でも、子どもの声もしてなくて。すっごく静かだったんすよ。それが何秒か続いて、なんか変だなーって思って見てました。そしたらお爺ちゃんがゆっくりと、こっちを向いたんです。うちと目が合って。それで真顔のまま……『分からないの?』って訊いてきて」  鳥肌が立った。  沢子は眉間に皺を寄せて続ける。 「うちはすっごく怖くなって、二階のママのところに行きました。ママはちゃんといました。ママにしがみ付いて、ずっと離れないようにしてました。それがいまでも忘れられないっすねー……」  話はそこまでのようなので、僕はすかさず「怖いですね」と口にした。 「個人的には、心霊よりもそういう話の方がゾッとするかも知れません……」 「小さなころの体験というのもな。自分の力がまだ弱いぶん、くるものがあるよな」 「そうなんすよ。言葉は『分からないの?』じゃなかったかもですけど、とにかくそんな感じで、意味が分からなくて不気味だったんです」 「だいぶ場が温まって――いや、冷えてきたな。良い感じに。次は香久耶だ」  しかし香久耶は「ないわ」と即答だった。
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