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彼女が指でなぞるように示したのは、フローリングの床に残っている痕だ。勉強机が置いてある窓際から縦に長く、日焼けをしていないために色が周りよりも薄い長方形の痕がある。たしかにベッドと同じくらいの大きさだ。
少し間をおいてから、帯が遠慮がちに「そうですが……」と答えた。
「ベッドを動かしたのはいつ?」
「えっと……一ヶ月ほど前だったと思います」
「帯さんの他にそれを知っている人は?」
手を挙げる者はいない。袴が「息子の部屋に這入る機会などないですからなあ」と頬を掻いたが、そこで詩乃が「雪駄ちゃんは?」と訊ねた。
「お兄ちゃんと仲良いでしょう?」
「……だけど、最近はあんまり。部屋には」
雪駄は俯いたまま、ぼそぼそと喋った。
千鶴が「ふうん」と目を細める。
「帯さんがこの部屋を掃除するのは毎日のこと?」
「はい。毎日しております」
「でも、いちいちベッドをどけてまでいないよね?」
「えっと……そうですね。そうですけど……」
「道雄、そのベッドをどかしてみて」
僕はまた指示どおりにする。ベッドが壁から離れると、千鶴はその裏に回り込み「やっぱりねえ」と云った。
「埃が全然たまってない。一ヶ月あったら、たまるはずなのに」
「あっ、いえ――ベッドをどかして掃除しました。つい最近」
慌てた様子を見せる帯に、千鶴は半笑いで返す。
「つい最近って云うか、ついさっきでしょ?」
「え?」
「死体を発見してから、袴さんに報せに行くまでの間に、家具の配置と死体の位置を変えたんでしょ? バレないように、でてきた埃はきれいに掃除して」
全員の視線が帯に集中した。彼女は口を半開きにして固まっている。
「キモいんだよ、この配置。勉強机が窓に向かっていたら、日差しが顔に直撃して集中できないじゃん。あと本棚がクローゼットの戸にかぶってるのもキモい。壁にかかってる制服も、これじゃあベッドに乗らないと取れないし」
千鶴は僕の手から手帳とペンを取り上げてなにか描き込むと、みなに見せた。
僕が先ほど描いた図の下に、新たなそれが追加されている。
「足袋さんが殺されたときは、下の配置だったんだ。それを帯さんは動かした。テレビ専用コンセントが左奥にあるせいで、テレビデッキの位置は変えられない。すると、勉強机は窓に向かうこの位置にするしかないんだよね」
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