パラパラチャーハン対決の行方

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 僕は香久耶に目を向ける。項垂れて、静かに泣いている彼女。完全に打ちのめされてしまっている。チャーハンは、彼女が自信と情熱を持ち、やってきたことなのだ。  何度も見てきた。千鶴の圧倒的な才能を前にして、挫折する人々を……。 「勝ちは、香久耶さんです」  僕がそう云うと、すべてがぴたりと止まった。 「……え? 美鳥ちゃん?」 「……香久耶の勝ちと、云ったのか?」  沢子と文丈がきょとんとしている。 「どうして?」と訊ねる千鶴も、驚きを隠せない様子だ。  僕は内心で慌てる。理由――それは、香久耶を傷つけたくなかったから、口をついて出た言葉だった。しかし、そう説明するわけにはいかない。なにか、千鶴と香久耶のチャーハンの違いは―― 「……グリンピースが、千鶴のチャーハンには入ってる。これがちょっと苦手で」 「はあ? なに、その子供みたいな理由」  千鶴の口調に責めるような感じが混ざる。 「じゃあ、グリンピースよけて食べたらいいじゃん」 「いや……もう全体に、その味が染みてるからな……」 「染みないよ。そんなに主張する具材じゃないでしょ」 「苦手な人は、そう感じるんだよ。もちろん美味しいけど、気になりはするわけで」  苦し紛れが過ぎるけれど、もう引っ込みがつかない。  千鶴はさらに追及しようとする。そこに文丈が「待て!」と割って入った。 「審査員は浦羽だろう?」 「だけどっ」 「香久耶のチャーハンも絶品には違いないからな。好みの問題というやつだ。それ以上の申し立ては見苦しいぞ、宮代」 「私は……」  口をつぐむ。自分らしくないと気付き、なにも云えなくなったようだ。  つかの間、居心地の悪い空気が漂う。それを破ったのは、やはり沢子だった。 「うちが審査員なら、千鶴ちゃんが優勝っすけどね! もう病みつき! 重症っす! ユーノウ? 道雄くん、それなら道雄くんの分の千鶴ちゃんチャーハン、うちがもらいますね! うぇ~い!」 「おわっ。ずるいぞ沢子! 俺もいいな、浦羽! 代わりに香久耶のチャーハンをやる!」 「利害の一致っすね! このチャーハンは稀代(きだい)の名人!」 「上手いな、沢子! その押韻は当意即妙と思ったぞ!」  再びバタバタとし始めて僕は少し安堵(あんど)する。だが千鶴の顔に笑顔はなく、拗ねたみたいに部屋の(すみ)を睨んでいる。申し訳ないことをしてしまった……。  香久耶の方は未だ信じられないといった様子で、僕をじっと見詰めていた。
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