2. 生徒会長と書記

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『推し』  なんて便利な言葉でしょう。  けれど不便なことに、会長を推すためのグッズは存在しない。  写真より直視しやすくて、他人にバレにくくて、持ち歩きできる。  そんな何かが欲しかった。    紆余曲折あったものの、私の推し活は『会長ぬい』を自作して可愛がることに落ちついた。  ぬいとはぬいぐるみのことで、それを可愛がることを『ぬい活』という。  SNSには、おいしそうなご飯や景色と一緒に写った、可愛らしいぬい達の画像がたくさん出てくる。    私は元々ぬいぐるみが好きだった。  小さいころはどこに行くにも、お気に入りを連れていたほど。  可愛げがないと言われる私だけど、可愛いものが好きなのだ。      問題はぬいの製作。これは大変だった。  本を参考にしても、最初はコレジャナイ物体が出来上がって頭を抱えた。  三体作って、やっと納得できる可愛さになったくらい。  いや本当にがんばった。  BIG LOVEのなせる技である。    それで、まあ……大きめの胸ポケットがついているコートを即買いしてから、ひっそり会長ぬいを連れて歩くようになった。    最初は家の近くをウロウロするときだけ、休日に一人で出かけるときだけ――人の欲望とは恐ろしい。  今では学校の行き帰りも一緒である。    人間は多様性。  ちょっとくらい五歳児の私がいたっていいじゃない。  誰にも気づかれていないんだから。  気づかれていない、はずだった。
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