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『推し』
なんて便利な言葉でしょう。
けれど不便なことに、会長を推すためのグッズは存在しない。
写真より直視しやすくて、他人にバレにくくて、持ち歩きできる。
そんな何かが欲しかった。
紆余曲折あったものの、私の推し活は『会長ぬい』を自作して可愛がることに落ちついた。
ぬいとはぬいぐるみのことで、それを可愛がることを『ぬい活』という。
SNSには、おいしそうなご飯や景色と一緒に写った、可愛らしいぬい達の画像がたくさん出てくる。
私は元々ぬいぐるみが好きだった。
小さいころはどこに行くにも、お気に入りを連れていたほど。
可愛げがないと言われる私だけど、可愛いものが好きなのだ。
問題はぬいの製作。これは大変だった。
本を参考にしても、最初はコレジャナイ物体が出来上がって頭を抱えた。
三体作って、やっと納得できる可愛さになったくらい。
いや本当にがんばった。
BIG LOVEのなせる技である。
それで、まあ……大きめの胸ポケットがついているコートを即買いしてから、ひっそり会長ぬいを連れて歩くようになった。
最初は家の近くをウロウロするときだけ、休日に一人で出かけるときだけ――人の欲望とは恐ろしい。
今では学校の行き帰りも一緒である。
人間は多様性。
ちょっとくらい五歳児の私がいたっていいじゃない。
誰にも気づかれていないんだから。
気づかれていない、はずだった。
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