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衝撃の光景
ピーッとお知らせの音がして、僕は脱衣所に向かう。プラスチック製の大きな衣類籠を足元に準備して、縦型洗濯機のフタを開ける、と――。
「うわぁっ、なにこれっ!?」
乾燥まで終えた洗濯物達は、小さな白い屑まみれになっていた。指先でひとつ摘まんで溜め息が出た。そう。ティッシュペーパーだ。洗濯物のどれかのポケットに入ったまんまのティッシュが、粉々に砕かれ、全ての洗濯物に付着してしまったのだ。
「勘弁してよ……」
今日、洗濯機の中に入っているのは、僕と同居人の洗濯物で……僕のは、ポケットのないトレーナーと靴下とアンダーウェアだけだ。となると、必然的に犯人は「彼」ということになる。そういえば、洗濯物の中に部屋着のスウェットの上下があったっけ。
「こんなときは……“ゴーグル先生”っ!」
パンツのポケットから取り出したスマホで、検索をかける。『洗濯物に付いたティッシュを取り除く方法』――と。あった!
「4通りもあるんだ」
流石、ゴーグル先生。こういう洗濯時のハプニングは世に溢れているらしく、生活の知恵として多くのサイトがズラリと表示された。
1、濡れた状態なら、20~30分間乾燥機をかけると遠心力で剥がれることがある
いや、もう乾燥してるし。剥がれていないから、調べてるんじゃん。
2、濡れた状態なら、野菜ネットや水切りネット、スポンジの固い方で優しく擦る
残念。これも、ナシだな。
3、乾いている場合、もう一度、柔軟剤かお酢を入れて、すすぎと脱水をする
えっ、お酢? 洗濯槽が金属の場合は、柔軟剤がいい……か。金属じゃないけど、お酢を入れるのはちょっと抵抗があるから、柔軟剤を使って、この方法かな。
4、乾いている場合、粘着テープで根気よく取り除く
うん。これは、僕でも思いついた。でも面倒だから……やっぱり3の方法を試してみよう。
結局、柔軟剤を入れて濯ぐ方法が功を成し、ティッシュの屑は綺麗に取れた。けれども、屑取りネットの掃除や洗濯機の排水ホースにつまりがないかを確認しなくてはならなかったので、いつもより洗濯に時間を割かれて、家事の段取りが大幅に狂ってしまった。
「もうっ! ちゃんとポケットの中まで確認してから、洗濯機に入れてよね!」
夕飯のカレーを食べながら、正面の同居人――間山勇馬に注意する。
「いやー、悪い悪い。うっかり忘れちゃうんだよなぁー」
「うっかりじゃないよ。大変なんだよ、洗い直ししなきゃだし、洗濯機も掃除しなきゃなんないし」
「分かった、分かった。今度から気をつけるから。な?」
ヘラヘラ笑って、缶ビールでゴクリと喉を鳴らす。一体どこまで真剣に受け止めてくれているんだろうか。憤慨をウーロン茶で押し流して、僕はとりあえず口をつぐんだ。
それが、冬も終わりに差し掛かる3月のこと――。
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