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2手目
◉スノウです!
エルはとんがった長い耳をしていた。
「これ、あなたがいた世界では『エルフ』って呼んでいるやつ。あれに似てると思わない? 私の名前にもピッタリよね。エルフ耳のエルって覚えてね」
「似てるけど…(私のいた世界に『エルフ』は実在してないけどね)それより、何で私を連れてきたんですか?」
「ああ、それは今から説明するけど、まずは何か食べない? 私いますっっっごいお腹空いてて。ユキもずっと気絶してたんだから何か食べたいでしょう?」
言われてみれば空腹感がすごい。あと、左肩がじんわりと痛い。吹っ飛ばしたとか言ってたもんね。落下の時に痛めたのだろう。幸い、人間の身体じゃないからダメージは少なかったようだ。
「それは賛成です。でも、私はなんだか人間じゃない生物になってるみたいだけど、今までみたいに何でも食べれるのかな?」
「クリポン族の身体にしたのはその種族がかわいいっていうのもあるけど、人間と食事が同じという点もあって、それでその姿にしてみたの。何を食べても大丈夫なはずよ(咄嗟に投げやすかったからという本当の理由は黙っておこう。私だって小さいんだから2人も人間を抱えるなんて無理なのよ。 クリポン2体がギリ持てるかなって思ったの。結局、持てなくて投げたわけだけど)」
どうやらこの世界でユキはクリポン族という種族になったらしい。
「ユキ・イイダのままだとこの世界の名前ではないのでかなり目立ちそうだな〜。何か似合う名前を付けましょう。そうね……『スノウ』なんてどう? クリポン族に居そうな名前なんだけれど…」
「『スノウ』ですか。それ、気に入りました」
「そう! 良かった。そしたらアナタは今から『スノウ』です。名前が決まったので私から特別な力をひとつ与えます。どれか1つを選んでくださいね」
「えー、どんな力?」
1.物を無くさない力
2.転ばない力
3.字が綺麗に書ける力
「何これ? へんなのばかり。もっと魔法っぽいのが与えられるのかと思ったのに」
「要らないならあげなくてもいいんですけどぉ?」
「いやいや、待って待って。……えっとね、平衡感覚は優れているので2は必要ないし。字も賞をもらうくらいには綺麗だから3もいらないかな。1の物を無くさない力をもらうわ」
「分かりました。では…」
そう言うとエルはユキ(スノウ)の額に手をかざした。すると一瞬、光が見えてそれがユキの身体に入っていった。
「手にペンを握るイメージをしてください。あなたにしか見えないペンが現れます」
「イメージ……」
ブン! と空間が歪み手元にペンが現れた。フタを開けた状態のネームペンそっくりだ。
「これがあなたの力。『ネームペン』です。あなたにしか見えないペンです。これで名前を書いてください。名前を書いたものは決して紛失しません」
「じゃあ、麻雀セットとマットに…『スノウ』って書けばいいのね」
スノウ
スノウ
「それでこれらを無くすことはなくなりました。麻雀セットのほうは箱に入れてあるもの全てにネームペンの力が加わりますので中のものにまで名前を書く必要はありませんよ。ちなみに、あくまで自分が『これは自分のもの』と認識しているものにしか書けない仕様です。そこは気をつけてくださいね」
「わかりました」
「じゃあとりあえず町に行ってご飯にしましょう!」
そう言ってエルは歩き出した。なんだか嬉しそうに鼻歌を歌っている。聞いたことのないメロディだが、喜びを表しているのは伝わってきた。
(異世界でも歌の文化はあるんだなぁ)とユキは思った。不安はあるが、とにかく今はエルについて行くことにした。
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