スノウドロップ〜ゼロから始める異世界麻雀教室〜

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3手目 ◉転移でした! 「そう言えば、エル。事故を起こした時。私は助手席だったでしょう? 運転席の女性はどうなったの?」 「そうそう! 本当は彼女の方の噂を聞いてやってきたのよ。でも気付くと今まさに目の前のバスと衝突事故を起こさんとしてるじゃない? 急いでふたりをかっさらってこちらの世界に飛ばしたのよ。でも焦ってたからちょっと強引になっちゃって……なんていうか、ミサト・イガワはユキよりさらに遠くに飛んでっちゃったの(ていうか吹っ飛ばしちゃった)。この世界に落下したのは確かなんだけど……ね」 「飛んでったあ?! ……でもま、死んでないなら良かった。死んでない……よね? 異世界転生じゃなくて異世界転移だよね??」 「そうです、あとちょっとで転生になるとこでしたけど」 「ミサトを助けてくれてありがとうございます。…そっか、ミサトの噂を聞いてやってきたのか。それってつまり麻雀が必要ってことよね。牌もマットも用意してあるし。察するにこの世界に娯楽を広めて欲しいとか、そんな所かしら?」 「すごい! その通りです!」 「娯楽として麻雀に目を付けたのは素晴らしいセンスだと思います。エル。私だけでなくミサトの命を救ってくれた恩もあるし、その使命、全力で頑張ります。ちなみにだけど、この世界って他に娯楽とかあるんですか?」 「ずっと前、まだ私がこの世界を担当するより前にチキュウからの転生者が教えてくれた『ミュージック』という娯楽はありますけど。それだけですね」 「そっかーー(さっき歌ってたもんね)」 「この世界は『マージ』という名前の世界なんですが、まあそっちで言う『チキュウ』が『マージ』だと思ってください」 「ふんふん」 「で、ですね。近ごろマージでは労働者の楽しみがミュージックしかないことが不満として上がっています。上手に歌えない人からはとくに不満があるそうで……自分なりに遊びを創り出す者もいましたがイマイチ面白みに欠けます。私がこの世界(マージ)の担当になったからにはぜひ楽しい世界を創りたい。なにかしらの遊戯を伝えられたらと思いました」 「担当って?」 「そっちで言う『カミサマ』みたいなものです。そういった名前はないんですけど。まあ、担当してる存在だと思っていただければ」 「名前がない?」 「人間はなんにでもすぐ名前を付けたがりますよね。役職名だの地名だのと、不思議です。そんなに名前って必要でしょうか? 私はエル。それで充分なのに」 「そういうもんかしら…? まあ、とにかく。なぜ私が呼ばれたのか理解はできた。麻雀伝道師になれと。そういうことでしょ」 「理解が早くて助かります。……どうですか? 出来そうですかね」 「ま、なんとかしましょう」 「ありがとうございます!」  ユキは現世ではミサトと2人で学校を回ったり健康麻雀教室の講師をやったりしていた経験がある。どんな初心者相手であろうと教えてきたのだ。例え異世界だろうとそれが通用しないとはならないだろう。 「あ、そろそろ町ですよ」  そう言うと確かに町らしきものが見えてきていた。そんなに歩いた感じはしないのだが。  目覚めた場所から見えたのは見渡す限りの地平線だったのに、もうわりと近い距離に町が見える。少し不思議だ。 (そうか、この星は地球より小さいし、何より私が小さくなったから見える距離が少ないのか。地平線との距離感も今までとは違うわね)  ユキは人間の身体だった頃は身長が成人男性の平均くらい高かったし、スポーツも万能。力もあって頼りになる人物だった。しかし今後は その身体だと思って動いてはならない。今は小さな『クリポン族のスノウ』なのである。世界の見え方がだいぶ違うことをこの時認識した。 「エル。ところでさ、この『クリポン族』っていうのは強いのかしら?」 「そうね、強いかと言われると…まるで強くはないわ。ヒト型の種族の中では1番小さいし」 「それって、大丈夫なのかな」 「ユキの安全性のことでしたら私が『カゴ』的な何かでなんとでもしますのでご心配なく」 「カゴ? あ、あー『加護』ね。本当にエルは神様なんだなぁ。『加護』なんてマンガやアニメの中でしか見たことないよ」 (……っていうか、麻雀セットとマット、持ちづらいなー。身体が小さいから大変だ。町に着いたらリュックを入手しなければ)  そんなことを思いながら歩いていたら段々と道の横に畑が広がり始めた。私と同じクリポン族が手入れしている。ここは多分、野菜の畑。  もうすぐで町に到着する。
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